89-「生徒会室訪問」からの「人助け」①
夢見坂ちゃんから、案外早く反応があった。
「凪元さぁ、困ったら助けてくれるっていったよね?」
記憶を消した側からの反応、というよりは、ただ単に困ったから助けを借りる時の反応だったけど。
僕は肩透かしを食らった気分になったけど、それを表に出さないようにして返した。
「うん。言ったよ。何か手伝えることある?」
「生徒会の仕事、いきなり量が増えたんだけど手伝ってよ」
「いいよ。何を手伝えばいいの?」
生徒会室に出かけた。
待っていたのはマジものの雑務だった。
「急に仕事が山ほど出てきてさ。あまりにもめんど……面倒だったから、手伝ってもらおうと思って」
面倒だって言葉を言い繕おうとして、やっぱりやめてた。言っちゃってるじゃん。
確かに僕は助けるって話をしたけど……まぁ、いいか。
こういう雑用で助けるってのは珍しい。
それに生徒会の人たちに自然に近づける。
考えようによらなくても、これは大きなチャンスだった。
話によると。
期末テストも終わり、三者面談が近づき、学校も夏休みを目前としてる。
その際に生徒会の仕事がドサっと渡された、ということらしい。
これを手伝わないのは、非人道的かな、と。
生徒会室にいたもう一人の生徒から言葉が飛んでくる。
「夢見坂、何で凪元を連れてきたんだ?」
水沢上くんが夢見坂ちゃんに質問を投げかける。
至極真っ当な疑問かも。
僕も夢見坂ちゃんにどういう繋がりがあったのかって。
「助けてくれるって言うから、助けてもらおうと思って」
「まぁ、そっちがいいならいいけどな」
水沢上くんとは先月に一悶着あったけど、そこから進展は何もなかった。
けど、この反応を見る限りは、ここにいてもいいらしい。
「よろしくね」
と挨拶をしておく。
「平賀先輩は?」
「まだだな」
「そっかー。早くきて欲しいなー」
夢見坂ちゃんが水沢上くんと会話を繰り広げる。
僕はまだその中には入っていかない。
仕事をあてがわれるのを待っていた。
指示待ち人間が如く。
実際に仕事をする際は指示待ちにはならないけどね。
「まぁ、いいや。やるか」
と、夢見坂ちゃんはノートパソコンの電源をつけ、作業に取り掛かった。
夢見坂ちゃんがノートパソコンを開いても僕は立ったままだ。
「夢見坂。いいのか。凪元が手持ち無沙汰になってる」
「もうちょい待ってくりー」
僕は黙って待つ。
「ん?んー……ふーん」
何やら息を漏らしながら、パソコンと睨めっこをしていた。
「うん。よし」
どうやら何かが終わったようだ。
「凪元にはこの紙の束の集計をしてほしいんだ」
夢見坂ちゃんの手元を見ると、紙の束がわさっと積んであった。
数学の青い参考書くらいの厚さがあるかも。
ひえ……
「えっと?」
「項目ごとの数字を足していきたいんだけど。紙で集めたやつをパソコンに打ち込んでさ」
「なるほど?」
なるほど。紙に書いてある数字を表計算ソフトに打ち込んでねってことか。
データ入力ってわけね。
「夢見坂、そんな量やらせるのか?」
水沢上くんが夢見坂ちゃんに批難の色を混ぜた声をかけた。
「私はこっちのデザインしなきゃいけないからさー。水沢上が代わりにやってくれる?」
「いや、俺はやらない」
「でしょー」
「お前が仕事サボりすぎなんじゃないか」
「サボってないし!あんたが早すぎるだけだから!」
夢見坂ちゃんと水沢上くんの漫才が繰り広げられた。
「というわけでさ。お願いできる?」
漫才が終わった後、改めて夢見坂ちゃんは僕に頼んできた。
「いいよ。助けるって言ったのは僕だしね」
量が多くても僕は自分の言ったことを守る。
「ありがと」
夢見坂ちゃんはニコニコと笑ってお礼を言って、水沢上くんはあきれた顔をしていた。
「そっちの仕事は?」
夢見坂ちゃんは水沢上くんに聞いた。
「あと少し。終わったら部活に行く」
水沢上くんはサッカー部だ。
部活があるのに生徒会の仕事もあるなんて、大変そうだ。
「あんなにあったのに!?」
「だから、お前はサボりすぎなんだ。俺ほどとはいかなくとも、もっと早くできるはずだ」
どうやら、水沢上くんは生徒会の仕事も早いようだ。
わかっていたことだけど。
「そっかなー。そこまで早くはできないけどなー」
夢見坂ちゃんはぐちぐち言いながら仕事に取り掛かっていた。
しばらくすると、ガラリと扉の開く音がして、女生徒が1人入ってきた。
「遅くなっちゃったー。ごめんねー。
アレ。なんか見慣れない人が」
声の主は、2年の副会長、平賀縁。副会長をやっている。
僕を見て見慣れない人と形容した。
「凪元くんですよ。あたしの手伝いに来てもらいました」
「ああ。凪元くん。そういうね。手伝ってもらってありがとね」
「いえいえ。これくらい。お安い御用です」
「急にやることが増えてね。私は慣れてるから何とかなるけど、1年生にはちょっと法外な量かなって思うし。手伝ってくれてありがたい」
「先輩。水沢上はあと少しで終わりそうって言ってました」
「えー。もう終わりそうなの?私より早い……進捗教えて」
「はい。こんな感じです」
水沢上くんが何事もないかのようにパソコンと資料を見せる。僕は内容を見てないからわからないが、副会長の様子を見ると、驚異的な出来なようだ。
「中くん、優秀だとは思ってたけどすごいね。何かやってた?例えば、企業して会社立ち上げてるとか」
「いや、そんなことないですよ。何言ってるんですか」
中(あたる)くんとは水沢上くんのことだ。僕は中々名前では認識しないから、一瞬誰のことだ?って思ってしまった。
あの水沢上くんが笑いながらツッコミを入れていた。
先輩からのネタ振りだったら、ちゃんと答えるようだ。先輩に対してはあんなでも、僕からキレキレのギャグを言ったとしても、冷たくあしらわれるだけだろうな。
「私も頑張らないといかんな」
「ちなみに先輩はどれくらい終わってるんですか?」
「私は後残り3割くらいかなー。ユノアちゃんは?」
「私は手伝ってもらうんで、残り半分?くらいだと思いますー」
「あー、そっか。普通はそれくらいだと思うよ。凪元くんもありがとう。ちなみに中くんは?」
「もう後10分くらいで終わりそうです。終わったら部活にいきますね」
と、先程言っていたことと同じことを言っていた。
夢見坂ちゃんと副会長は同じような表情をしていた。
顔だけで「聞いた?今の?ホントに早すぎない?」
と語っているようだった。
僕らがカタカタと作業を10分間ほどしていると、本当に水沢上くんは席を立った。
「もう行きますね」
「いってらー」
「お疲れ様。頑張ってねー」
僕もそれなりに挨拶を交わした。
水沢上くんの様子に不審なところはなかった。
僕たちが夜に襲撃したことすら何も気にかけていないかのように思えた。
じゃあ、問題はこっからか。
わざわざ水沢上くんが席を外してくれて、夢見坂ちゃんと副会長の3人という状況になった。
望んでいたような状況だ。
まるで誘い込まれたかのように望んでいた状況だ。
こういうあまりに上手くことが運びすぎると、僕は頭がクラクラしてくる。もう1人の自分が自分から抜け出して、自分の後ろから景色を見るかのような。自分の後ろから俯瞰しているかのような。
これは昔からあって、僕は、自分の勘が働いていることの証明だと思っているのだが。
周りを警戒するよう、気を引き締めることを思い起こされる。
だから、この感覚は嫌いじゃなかった。
データ入力をしながらも、様子を窺っていたけど、夢見坂ちゃんと副会長は作業をしながらもお喋りを挟んでいた。
この様子を見ると、水沢上くんと仕事のペースが全然違うのは、もしかしたら集中力の差もあるかもな、と思った。
「凪元くん、今どんな感じ?」
「まだまだですねー。でも気持ち的には結構やりました。後これくらいです」
そう言って紙の束を掴んで見せる。
副会長は「おお」と言って感心してくれたようだ。
「ありがとうね。この量はホントキツいからね。手伝ってくれて本当に助かるよ」
今日何度目かのお礼だ。
ここで以前、夢見坂ちゃんに言ったように、他人の力になることが僕の幸せだから、とかギャグを放ってもいいのかもしれなかったけど、それは自重した。
「ところでさ、凪元くん」
「はい。なんでしょう?」
「君は何を調べようとしているのかな?」
油断していた。
肝が冷えるとはこういうことだった。
このタイミングで来るとは思わなかった。
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