79-勉強会の約束


古今泉とあの後メッセージアプリでどこで勉強会やるのかを決めた。


「お姉ちゃんいると思うけど、私の家でやる?別のところがいい?お姉ちゃん苦手?」

古今泉の姉というのは古今泉百々華。掴みどころがない、中々強烈な人物だった気がする。

苦手といえば苦手の部類かもしれないが、避けるほどでもない。

「全然問題ない」

「じゃあ私の家で」


次は時間を聞かれた。

「何時からにする?お昼?午前中からやる?」


何時でもいいが。

どうせすることもないし、午前中からにするか。

「おっけ!午前中ね!10時くらいからでいいかな?」

「大丈夫だ」


そんなやり取りをして予定を決めた。


家に帰った後、殿子さんに明日の予定のことを伝えた。

「明日、朝から古今泉の家で勉強会してきます」

「え?古今泉って、古今泉さん?」

「そうです」

「ひょえー」


殿子さんはわざとらしく驚いていた。

何をそんな仰天するフリをする必要があるのか。


「女の子のお家に遊びに行くのなんて初めてじゃん!」

ああ、そういうことか。

「そうですよ」

俺の方は努めて自然に振る舞う。

殿子さんにからかわれるのは、構わない。構わないのだけど。

「良平くんに女の子の友達できて、その上、お家デートだなんて、ちょっとしたお祭りだよ!」

お祭りって。初めての女の子の友達でそんなにテンション上げられるものなのか?


「デートじゃないですよ」

「そうか。勉強会だっけ。でも、女の子のお家に行くわけでしょ?何が起こるかわからないじゃん」

せめてもの抵抗が軽々とスルーされてまたペースを持ってかれた。

しかし、そうだ。能力に関わりのあるものがターゲットになるかもしれないという可能性がある。だから、警戒しなければならない。何が起こるかわからないから。


「そうですね。古今泉も狙われてるかもしれないので、俺が守らないといけないです」

「へ?ああ、それも大事だけど!そういうことじゃなくて!」

そういうことじゃないそうだ。わかってはいたけれど。



殿子さんは少し上がったテンションを落ち着かせ、ふぅ、と一息吐く。

「良平くんはさ、もし私がここに男の人を連れてきたらどう思う?」

「え、何かあったんですか?」

「いや、例えばの話よ。私が友達でーす、ってここに男の人連れてきたらどう思う?」

うーん。いや、それは嫌だな。

ちょっと嫌な感じがする。


ただ、次の言葉を紡ぐのが憚られた。



「どうしたの?」

殿子さんは、何も言い出さない俺の様子を見てか、言葉を促すように尋ねてきた。

が、しかし。

「いや、どうもしてないですけど……」


やっぱり次に続く言葉は出なかった。


俺が言葉を探しながら、考えて黙っていると、頭に優しい圧力を感じた。

殿子さんの手が俺の頭を撫でていた。

「よしよし、ごめんね。ちょっと意地悪なこと言っちゃったね」


「いや、そんなことないですけど」

「ううん。そんなことあるんだよ」

よしよし、と殿子さんは俺の頭を撫で続ける。

ゆっくりと動かされる手の動きが心地よい。


殿子さんがどう意地悪をしたのかは、分からなくてモヤモヤしているが、頭を撫でられるのは嬉しかった。

俺もまだまだ幼いな。

でも、殿子さんに構ってもらうのはどういう形であれ嬉しい。

自分から直接甘えるのは恥ずかしいけれど、こうやって殿子さんから来てくれる場合は享受していたい。




いや、でも

「あの、いつまで撫でてるんですか?」

俺が何も言わず、されるがままなのをいいことに、殿子さんはずっと俺を撫でていた。

何を考えていたのだろうか。

「良平くん、撫でられるの嫌?」

「嫌、じゃないです」

「じゃあいいじゃん」

「けど、少し恥ずかしいというか…」

少しくらいならおもちゃにされるのもいいのだが、こうも続くと気持ちの置きようが分からなくなってしまう。嬉しいだけに複雑だ。



こうやって構われることは、俺にとって嫌なことではない。

殿子さんもそれをわかっているから、殿子さんからはやめてくれない。

断腸の思いで俺が自ら抗う必要があった。


今回の抵抗は弱くなってしまったが。


「失礼のないようにねー。あ、そうだ。何かお土産持って行こうか。古今泉さん何が好きか良平くん知ってる?」

「あー、いや…知らないですね。この前喫茶店行った時はキャラメルモカを頼んでたような」


「え、もうデートしてんじゃん!」


「いや、デートじゃないですよ」


「2人じゃなかった?」


「2人でしたけど」

「じゃあデートでは……?」

「デート……なんですかね?俺の記憶について話しただけなんですけど」


「良平くんはデートって思ってなくても、古今泉さんにとってはデートだったりするんじゃない?」


「そういうものですか?よくわからないです……」

「まぁ、そうだね。デートって雰囲気じゃ無さそうだね」


殿子さんは自分から振っといて自分で違うと結論を下した。


「好きなものわかんないか。適当に用意しておくね」


「はい。ありがとうございます」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る