71-「本格的に狙いは僕」


僕は一度家に帰った。軽い準備。

やっぱり小手とかの防具はつけないとね。紳士の嗜みとして。

紳士たる者、女性を守るために自らが盾になれってね。

誰かが言ってたんじゃないかな。近代のレディーファースト信奉の人が。

わざわざ近代の、とつけたのは、実際レディーファーストが生まれたのは、男性優位の社会で、そこでのレディーファーストというのは、簡単に言えば、女性を盾にする、みたいなものだと聞いたことがあったから。

危ない道を男性が歩くのではなく、女性に歩かせてから安全を確認する、みたいな。

そんなような風習がレディーファーストの起源だと以前聞いた。


まぁ、僕は昔の人じゃないから、レディーファーストに対する認識は現代のレディーファーストにどっぷり浸かってる。

紅茶を作るときのカップに沈むティーバッグの如く。

僕は女性を守る側のレディーファーストの方針だ。


今回、守るべき女性はいない訳だけど。


木々村くんも家に帰ってから近くには来てくれるようだった。

僕は昨日と同じように体育館へ行って、同じように襲われて、同じように外に誘き出せればいいな、と思っている訳だけど。

そうは問屋が下さないかもしれない。

下手したら僕一人で対処しなければならないかも、という覚悟はしていた。


多分昨日の様子から、刃物とかは持ってこないと思うんだけどな。


実際小手だけではなく、プロテクターも装備した。僕の忍用具。

守りが手薄なのは関節の内側と、首、顔の辺り。

特に顔が不味いかも。



側から見るととんでもなく危ない人物になっているとは思ったけど、これをしないともっと危ないじゃん!と言う話だった。

夏の暑さはちょっと厄介だったけど、これくらいは耐えればいい。

熱中症が若干心配かな。

水分は取れた方がいいけど、そこは事前準備だけで諦めておく。

装備にはペットボトルはない。


作戦というほどのものはないんだよな。情報が足りないから。

木々村くんはもっと情報集めてからの方がいいんじゃないか?と言っていた。

僕もそれには同感なんだけど、今回はそこまでしなくても良さそうというか。


みんなはもうわかってると思うけど。

もっと単純な気がする。


体育館で好き勝手やってればまた攻撃してくるだろう、と予測していた。


理由はわからないけど、体育館に近寄ってあの幽霊のことを探ろうとするのが悪かったんだろうと思ってる。

相手としては幽霊の仕業として片付けるつもりなのかもしれない。

けど、僕は例の幽霊くんとそれなりに意思疎通ができる故に、それはそもそも通用しない。

人為的なものだと僕はわかっていた。

というより、能力者だろうとも予測がついていた。

木々村くんのように能力を察知することはできないけど。




僕は誰が来る前に体育館に入る。部活中に入って息を潜めるのもなしではなかったけど、ちょっとね。流石にね。暑いからね。

夜に居残って練習する運動部もありそうだけど、残念ながら、そう言うことはなかった。幽霊騒ぎがあるのに夜学校に居残ろうとするのは、流石に常人のすることではないということかな。

暗く静まった体育館。外にいる虫の音で、体育館の電気系統から響く音は打ち消されている。

それでも外から人が来るようであれば気づけるだろう。

逃げ道は確保しておきたいところだ。

窓から入ってくる多少の外の光はあるけれど、そんな上からの光は当てにならない。

当てにできるのは本当に音だけだった。


今日も体育館の住人に話しかける。

「やっ。今日も来たよ。ごめんね。変な格好で。ちょっと今日は物入りで」


「物入り?」


疑問のこもった念を飛ばしてくる。そりゃそうだ。


「いや、こっちの話。今日も少しだけここで色々させて欲しい」


物入りと言う言葉を間違った意味で使っているだろうことはわかっていた。物入りってのは、金がかかるって意味。

僕が言いたかったのは、ここで暇を潰す必要があるから、ここにいさせてねってこと。


適当に過ごすんじゃなくて、昨日と同じように、ブツを探す。

流石に一昨日と同じところには何もない。

仕込まれてない。



真夏の体育館。夜だから多少マシかと言えば、そんなわけはない。今日に限ってはこんな服装だから。

今日1番の難関は能力者じゃなくてこの暑さかもしれない。



仕込まれてるものを探し回るのがしんどい。

どこにあるのか?

なければないでいいんだけど。


しかし、ないというのを確信するのは中々難しい。

ないということを確信するために、ないことを証明しろなんて。

存在しないということを証明しろというのは悪魔の証明と言われるもので。

それはあまりにも、困難うんぬん。


いや、悪魔の証明うんぬんかんぬんと言っていたら仕事なんてできないからね。

思い当たるところを全体的に見ていくくらいである程度納得するしかない。


30分ほどかけて何もないことを確認。


僕の知らない間に何か仕掛けられていた訳ではなさそうだと思ってもいいだろう。きっと。


木々村くんに連絡。学校の外から見張っといて、伝えた。

彼は学校内のことに関しての見張りはほぼ効果なしだ。狙われるとしたら学校内だろうから、学校の敷地外の見張りは気休め程度だけど。

学校外から誰か侵入した、とかだったり、学校外で能力を使ってる不届き者がいたら知らせてもらおう。

学校外ではホント頼もしすぎる。


「じゃあね」

と体育館の住人に伝え、僕は外に出ようとする。

ここが1番重要。

一般の扉を使うわけでなく、狭い窓を使うわけだから、狙われるとしたらここだった。


そう言えば、ここで能力を使って襲われるのを木々村くんが外から目撃したとしたら木々村くんの目にはどのように映るのだろう?

物が飛んできたのを認識するのかな?

能力を使った人がいれば、能力の使用は認識できるみたいだけど。

そういった検証はしてなかったな。

今回は人影がどうであるかの確認を頼んだからあまり関係ないと思うけど。


出入りする窓の近くに立ち、耳を澄ませる。

外の環境音がする。

人がいるかどうかはわからない。


ついでなので、木々村くんに体育館近くで音立ててみて、と連絡した。


しばらくすると壁を叩くような音がした。

ガンガンガンと。

いや、ちょっと大きすぎません??

大丈夫?


ブロック塀でもぶん殴ってるのかな?見つかったら捕まらないか?


木々村くんが何をしてるのかはあえて考えないことにして、この音に反応するものがないかを聞いてみた。


木々村くん以外にはなさそうか。


おかしいな。そろそろ来ると思ったんだけどな。


と思い、外に顔を出した。



ドローンが飛んでいた。


嘘だろ……。モーター音は聞こえなかった。

いや、違う。ドローンじゃない。これは能力で浮いてる奴だ!



僕はすぐに体育館に身を潜めた。


間髪入れずにコンクリートブロックが落ちて、床にぶつかり砕けた。


この小型偵察機は、きっとカメラ機能がついている。僕が顔を出したのを認識して、そっから攻撃されたっぽい。

そうか、昨日も僕が気づかなかっただけで、小型偵察機を飛ばしていたのかも。

能力を使って。


外で見張りをしてくれてる木々村くんはこいつには気づいてないようだ。多分、木々村くん、見えなかったんだな。

能力で浮いてる偵察機だったから気づかなかったと考えられる。ということは、下手したら、この落ちてきたブロックも認識してないかも。

これは本格的に木々村くん、ヤバいな。

学校内で襲われたら自衛すらできないよ。


と、心の中で木々村くんの心配をしていたけど、僕も状況的には相当まずかった。


これ、体育館の中に閉じ込められてるよね。


とりあえず、木々村くんに連絡をする。


「攻撃された。君は外」


時間が短くてこれくらいしか打てなかった。

木々村くんは絶対に学校内に来ちゃいけない。大怪我をする。


ガシャンと窓の割れた音がした。


僕が木々村くんにメッセージを送ってる最中に、コンクリブロックが窓を割って、そこから偵察機がやってきた。


見られてる。


相手は結構殺意が強い。

普通コンクリブロックなんて攻撃に使う?当たりどころが悪くなくても死ぬよ?

単なる脅しのレベルを超えてる。


この思い切りの良さ。

刃物は使わないとの判断は、もしかしたら訂正しないといけないかもしれない。


というか、体育館に夜忍び込んだだけでどうして命まで狙われるかな?

それもわからない。



正直に言えば体育館の中といっても、偵察機を通してでしか目がないなら、僕は捌ける自信はある。

よほど大きいものは、外から来れないだろうし。


捌くだけなら、なんの問題もないだろう。ここに籠城してもいい。


だけど、今回は能力者本人を見つけないといけなかった。

学校外にいれば木々村くんが見つけてくれるかもしれないが、木々村くんから、能力の発動を感じたという知らせはない。


だから、学校内にいるはずだった。

僕が見つけなければいけない。

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