41-怪しいから補導されないようにしなければ。特に服装は注意
建物から出て歩いていた。言われた通り、タクシーがありそうな通りに出ようかと考えていた。
百々華が俺に尋ねた。
「アレは何だったの?」
あれは何だったのか?古今泉未来に対してならともかく、百々華に対して何を言うかは迷ってしまう。
「警察とは違うようだけど」
俺が答えあぐねていたからか古今泉百々華は続け様に言葉を紡ぐ。
「特殊部隊みたいな?」
「君は何なの?未来の知り合いって言ってたけど」
その質問も実際のことを答えても相手は満足しないだろう。俺と古今泉未来との関係は、隣のクラスの生徒、でしかないんだが、それでは納得しないかもしれない。別に納得させる必要もないんだが。
「古今泉未来とは隣のクラスってだけだ」
「高校生ってこと?」
「そういうこと」
「ふーん、後輩くんか」
てっきりもっと突っ掛かって来るかと思ったが、案外すぐに納得された。聞いてもまともに取り合ってくれないと思われたのかもしれない。
「これからどこ行くの?」
百々華にはクエスチョンマークが浮かびまくっているのだろう。
まず、そもそも、武装した人たちが流れ込んできたこと。
そして、謎のクソガキに連れられて外を歩いていること。
パーティの参加者の行方などなど。
その全てがはっきりしない。古今泉百々華は聡明だと聞いているので、大体予想はついているのかもしれないが。
「家だ。古今泉百々華を送り届けることが俺のやることだ」
「ホントに?」
百々華はかなり驚いたようだった。
逆にどこに行くと思っていたのか?
「どこかに連れ込まれるのかと思ってた」
「そんなことはしない」
確かにパーティ会場があんな風になって、1人だけ外に連れ出されたとしたら、何か別の目的があるとは思うかもしれない。
百々華と別れる前に俺が調べておきたいのは、古今泉百々華は、池崎鯉弥の能力の影響をどれくらい受けていたのか、ということと、それと、古今泉百々華は池崎鯉弥の計画をどこまで知っていたのか、ということだ。
騙されて利用されているだけなら、このまま池崎鯉弥との縁を切ればいいだけの気もするが、もし、積極的に関与しているということであるなら、この後の対応は変えないといけないように思う。
と言うより、もし、百々華が意図的に池崎に協力しているとするなら、確実に敵対行為に当たるので、このままでは済まない。
もしかしたら、組織から監視がずっと付く可能性すらある。
まずは牽制から。
「俺からも質問いいですか」
「うん、何かな?」
「あなたはどこまで関わっているんだ?」
「何の話?」
暗いし、対面ではなく、歩きながらなので、相手の表情はわからないが、語調から本当に何もわかってなさそうなのが分かる。こんな遠回しな言い方では何も伝わらないのは確かなようだ。
「じゃあ質問を変える」
「ちょっと待って。常体と敬体統一してくれない?落差にびっくりするから」
「じょうたい?ケータイ?」
「敬語かタメ語ってこと」
そういうことか。確かに、実際混ざってたな。年上なので、敬語を使いたいところだが、今のところあまり敬語を使う気にならないんだよなぁ。
しかし、仮にも古今泉の姉なのだから、ここは敬語に統一しておくか。
「わかった。敬語にしよう」
「早速敬語じゃないけど」
ダメだ。俺の感情には逆らえなかったようだ。
「まぁいいや。それで、逆に質問するけど、君はあそこで何が行われていたか知ってるの?」
「乱行パーティと聞いている」
能力者を集めていたということはまだ黙っておく。
「ふーん。なるほど。君たちは警察でないけど、それの摘発に来たって感じなの?」
「そんな感じだ。俺は古今泉百々華を回収しろという指示を受けてる」
「保護、とかじゃなくて回収なんだ」
確かに。師匠は保護しろとは言わなかった。回収という言葉を使ったからには何か理由があるのかもしれない。
「確かに回収、と言っていた。だが、送り届けるなら別にどっちでも問題ないだろう」
「そうかも。私としてはこのまま帰らせてくれるならすごくありがたいけど、取り調べとかなくて平気なの?私だけ特別とか」
それに関しては、俺が古今泉未来から頼まれたから、と答えれば納得されるかもしれない。
そう言えば、師匠からも保護して連れてこい、とは言われていない。古今泉百々華を改修した後の行動について何も伝えられてないのは、何か事情があるのかもしれない。
「恐らく、池崎の集まりに来ていた主要な人物は取調べを受け、拘束され無力化されるだろう。主要な人物でない人は多分その内解放される」
あの乱闘騒ぎで死んでなければだが、という言葉が思いついたが言わなかった。主要な人物というのは勿論、能力者を指している。主要じゃない人物、というのは、能力者でない人を指している。
古今泉百々華は拘束しろという話は受けていないから、能力者ではないという認識なのだと思う。実際に古今泉百々華からは能力の臭いを感じない。
「そっか……」
と言って古今泉百々華は黙った。
大通りになると、タクシーがよく通っていた。
このまま捕まえて帰っていいだろう。
このまま古今泉百々華を1人タクシーに乗せるという選択肢もあったのだが、監視の目は必要だろうから、俺も一緒に乗ることになる。
「タクシーを捕まえる。それで帰る」
「わかった。ありがとう」
難なくタクシーは捕まり、後部座席に2人で乗り込む。先に古今泉百々華を乗せる。運転手の人は高校生くらいの男女が二人この時間にタクシーに乗ることについて突っ込みをいれなかったので、助かった。
「古今泉の家まで行く。〇〇高校の方までお願いします」
「はい」
そういって沈黙が流れる。
古今泉百々華は窓の外を眺めていた。俺と目を合わせようとしない。段々と自分の親しんでいる風景に近づいていく様子を眺めて何を思っているのだろうか。
俺は古今泉百々華がどういうつもりで池崎のところにいたのかを考えていた。
師匠から聞いた池崎の能力は人心掌握といったものだった。ある程度接触期間があれば、かなり自由に相手を動かすことができると聞いている。だから、古今泉未来が、古今泉百々華が4月頃からおかしくなったと言っていたが、その辺りから池崎と会っていたとすれば、その条件を満たすのではないか?満たしていたとすれば、古今泉百々華は今回の騒動では単に操られていたと言えるのではないか?
そう考えることもできる。
師匠から池崎の能力の詳細を聞いていないから実際のところはどうであるのかは検証待ちだとは思うが。
さっきの会話からは正直、古今泉百々華がどういうつもりだったのかはまだ掴めていない。
そういえば、俺の方の質問の返事が答えられてなかった気がする。しかし、このタクシーに乗っている中でするような会話ではない。
タクシーから出るときに聞けるように聞くことを考えておこう。
質問の内容は……
「ねぇ」
俺がタクシーから降りてからどのような質問を繰り出そうかを考えていたら百々華が不意に声をかけてきた。そちらを見ると、相変わらず古今泉百々華は窓の外を見ていたが。
「なんだ」
「未来はどこまで知っているの?」
百々華の方から未来のことを聞いてきた。今までとは質問の方向を変えてきた。これはどういう意図なのか。
「君、未来と仲いいんでしょ?」
俺が考察をして黙っていると、百々華の方からまた言葉を続ける。仲がいい、とはどういうつもりでそんなことを聞いてきた?俺はまだ古今泉未来とは隣のクラスでしかないとしか言ってないはずだが。俺がここまで古今泉百々華の件に絡んでるから、そう思ったのか?
「俺が今日の集まりに来たことは知っている」
仲がいいということに関してはあえて答えない。
「じゃあ……」
百々華は言いかけたが、そこで終わった。続きが来なかった。
「あ?何だよ」
「なんでもない」
古今泉百々華は窓の縁に肘を乗せ、顎を手に乗せ、窓の外を見たまままた黙った。
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