異世界へ連れて行かれた彼女が、今更になって戻ってきた件
一ノ宮美夜
第1話
高校一年、秋。世界は騒然とした。
日本の、なんでもない公立高校の裏庭に突如天高く突き刺す光の柱が現れた。
その時、僕は恋人である一ノ瀬弥生と彼女手製の弁当を食べていた。
光に飲み込まれ、空へとまるで吸い込まれていく弥生に手を伸ばしたが、僕の手が光に触れた時電流が流れたように身体中が痺れ、僕は意識を失った。
行方不明事件としてそれは話題になり、それに光の柱を目撃した人が多くいた事、そこに一人の少女が天へと昇っていった事、それらから、弥生がそれに巻き込まれたというのは、誰もが想像できた事だった。
何より傷心の僕は目の前でそれが起こり、何もできなかったわけで、正直なところ事件のことを聞かれても辛いだけだった。
そんな騒動も三日すれば落ち着き、世の中は正常へ戻る。ただ、僕にとっては異常なままで、僕の恋人がいなくなったということへの虚しさと寂しさは、どんどんと僕の心を蝕んでいった。
それからというもの、高校生として全うしたつもりだ。弥生が帰って来た時に恥ずかしくないように、男を磨き勉学に励み、なんなら俳優のオーディションなんかを受けて箔をつけた。
藤井晴翔と言えば、それなりに知られるようになったのは高校三年生の頃。
僕は撮影のスケジュールの合間に登校する日々を過ごしていた。それで言えば、先に言った高校生を全うしているかと言えば違うだろうが、それでもテストの点も落ちることなく先生に驚かれるのだが。
転機が訪れたのは、僕が進学かこのまま芸能の道一本に進むかを悩んでいた時だ。
夏休みの間、僕は大阪に居た。
撮影というのもあり、それに小旅行の気分でもあった。
真新しい景色は常に刺激を生む。それに弥生がいなくなった世界だったことを忘れさせてくれる。
幸いにも、この世界に入ってからあの事件の当事者であることについては誰も触れなかった。
リーガロイヤルホテルの一室から堂島川を眺めていると、あの時と同じ光の柱が発生した。
僕はまた誰かが何処かへ行ってしまうのではないかと心配になった。丁度下を見てみると、共演の同い年の女優である高崎千夏がいつもの派手な色の日傘を差していたので、すぐに彼女がいる事に気づいた。
僕は急いで部屋を出てエレベーターに乗り込み、一階へと降りる。慌てた様子の僕に困惑するコンシェルジュは言葉を失ったように口を開けただけで、僕はすぐさま高崎の元へと駆けつけた。
「高崎さん!」
そう叫ぶと驚いたようにこちらを見て、日傘を手から落とした彼女は僕に恐怖をぶつけるようにしがみついた。淡い青と白のサマーワンピースの裾が少し舞わせ、彼女は僕のティーシャツの胸元ををギュッと握った。
次の瞬間、空を指差す野次馬達が次々に女の子が降ってくると言い、僕は目を凝らしながら光の柱を見つめた。
「やった、帰って来れた……」
懐かしい声だった。二年経ったから彼女も少し大人になっていた。あの頃と変わらない制服姿で、彼女はキョロキョロと辺りを見渡すと一瞬僕と目が合った。僕は高崎を抱えながら少しずつ女の子に近づいていく。
「弥生……か?」
「え?」
僕が声を掛けると彼女は一瞬困ったように僕を見てから、少し考えた。
そしてとりあえずと言ったように「そうだけど?」と返事をしたが、彼女は僕を忘れてしまったのだろうか。
「え、藤井晴翔ちゃう?」
若い女性、僕よりかは年上だろうが隣にいるお婆さんよりかは年下の若い女性がそう声を上げる。
「あれもしかして高崎千夏? やっぱ二人付き合ってるんや!」
そう言ってスマートフォンのカメラを起動させた事に気付いた僕は高崎を守るようにしてすぐにホテルへと戻った。
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