第18話 愛の白玉

「しかし白玉ってマジ何の味もしないよな」


「分かるよ南君。無だよね、無」


「たしかに無かも。けどさ、無いとなんか嫌なんだよね」


「「それな」」


ファミレス入店時にいきなりひと悶着あった僕らだけど、嵐が過ぎ去った今はほんわかまったりムードでパフェをパクついている。

この穏やかな空気のまま色々と話し合いたい事はあるんだけど、さっき満面の笑みで「初体験が…」とか言い出した渚を慌てて制止してからは、徹底して日常会話の流れになるように僕が舵を切っている状態。


あんなに凝った初体験をしたんだから、渚が話したくなる気持ちも分からなくはないんだけど、さすがにファミレスではね?

初体験ってワードで茜が「あん?」ってまたぶちギレそうになってたし、込み入った話は後でカラオケにでも行ってする事にした。


「あ、そうだ!南君てさ、あーんした事ある?」


「ん?ないよ」


「まじ?じゃ、あーん♡あーん♡」


って待て待てー!!


「はいストップ!渚ちょっと待って!一々付けんの止めてくんない?そんなにマウント取りたいわけ?あんたの仲良くってさ、一体何?やってること違くない?」


だよな?煽ってくるのは違うよな?


「そー言うけどさ、まじめな話、私は茜が羨ましくて仕方がなかったんだよ?ずーっと独り占めだったでしょ?たしかに今はワザと煽ってみたけどさ、この気持ちを知って欲しかったからだよ?二人がイチャついてるのを指を咥えて見ているしかなかった私の気持ちをさ?それを知ってくれなきゃ仲良くなんかなれないよ」


…なるほど。

3年間の想いってたしかに馬鹿に出来ないよな。

特に渚は、僕らが仲良くしているのを近くで見ながら一人で我慢してきたんだもんな。

つまり、渚は不平等さを感じているんだ。

渚の仲良くってやつは、平等になって初めて始まるって事なんだ。

これは…ちょっと様子見るかな。


「それはそうかもしれないけど…。でも渚は知らないから言うけどね、昨日さ、ミナは私を捨てようとしたんだよ。私とミナの10数年も、命を削ったような告白も、渚、あなた一人のために全部捨てようとしたんだよ。ミナはそれだけあなたに本気だったんだよ?…昨日はギリギリだった。本当に首の皮一枚も残っていないような状況だった。ちょっとタイミングがズレたり、一言でも間違っていたら終わってた。人生は長いから、これから逆転の目があるかも、なんて一切思えないくらいの絶望。だって関係を断つってことは、死んだものとして扱うって意味なんだよ?私達にとってはね。例えるなら、ただの友達と縁を切るのと、親兄弟と縁を切る事との違いって事なんだよ?分かる?この絶望感。悔しいけど、私はあなたに負けたの。ミナにとってはたった一日の出来事が、私達の10年に勝ったの。だから…もう平等じゃダメ?あなたの3年間の苦しみとは比べようがないけれど、私はボロボロになるまで傷ついた。バカみたいにのほほんとこの場所にいる訳じゃない。それだけは言える」


茜は、泣かなかった。

気丈に言い切った。

立派だった。

でも僕は、胸を打たれたと同時に、最後の切り札が『えっちな幼馴染あかねちゃん』だった事を思い出し、微妙な気持ちになった。


「ふぅ…。我がライバルは怖いなー相変わらず。どれだけ一生懸命にやっててもさ、バスケなんか遊びにしか思えないや。茜、あんた全然負けてないよ?つーか勝った気になんかなれないよ。だって茜はここにいるんだから。ほんとマジどんだけ強いの?平等どころか、茜の方が頑張ってたんじゃないかって思っちゃうよ。はぁ…なんか悔しいのか何なのか分かんないや」


「ふーん。じゃミナあーん♡」


パクッ


「あっ!」


「はい私の勝ちー!初あーんゲットー♪」


「バカお前、振り出しに戻んな?って反射的に僕も口開けちゃったけどねー。じゃ渚、あーんするから口開けて?」


「あっ!」


「わぁ♡南君やっさしー♡あーん♡」


パクッ


「どう?愛の白玉の味は」


「んー♡無ー♡」


「ミナ私にもあーん♡して!」


「えっムリ。白玉切れ」


「何で白玉限定なの?!て、店員さーん白玉の追加出来ますかー?」


「アハハ!ほんとにタダじゃ起きないよね茜って!ねぇ南君!楽しいね!」


「だなー。ただ追加の白玉沢山きたらどーしよ。ご近所に配る感じ?」


と、そこで隣のおばさんと目が合う。

何故かお互いに苦笑い。

いや、マジで配る気はないからね?


結局、追加の白玉5個はスタッフが美味しく頂きました。まぁ味はしないけど。

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