感謝
翌朝、窓から差し込む陽の光で目が覚めた。昨夜の雨が嘘のように、空は青く澄み渡っていた。朝食後、私は女将さんに昨夜の感謝を伝え、これからのことを話した。
「昨日は本当に助かりました。ありがとうございます」
「いいえ、困った時はお互い様ですよ。それより、今日はどうされるんですか?」
「実は、お金がほとんどなくて…もしよろしければ、少しの間、こちらで働かせていただけないでしょうか?」
「あら、そうなの?でも、うちも人手が足りているわけではないし…」
「はい、長くはいられないことも承知しています。事情があって、旅をしているんです。でも、少しでも恩返しがしたいんです」
私は、自分の過去、会社でのパワハラ、恋人に振られたこと、そして、旅に出た理由を正直に話した。
「そうだったの…大変な思いをされましたね。でも、あなたは強い。きっと、乗り越えられますよ」
女将さんは、私の話を静かに聞いてくれた。そして、少し考えてから言った。
「わかりました。もし、それでもよければ、うちで働いていきませんか?短い間でも、あなたの力になれることがあれば嬉しいです」
「ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」
私は、何度も頭を下げた。
こうして、私は箱根の古い旅館で働くことになった。仕事は、掃除や洗濯、料理の配膳など、簡単なものばかりだった。しかし、都会の喧騒とは無縁の、静かで穏やかな時間がそこにはあった。
旅館の仕事は、私にとって良い気分転換になった。女将さんや他の従業員の人たちと話したり、お客さんと触れ合ったりすることで、少しずつ心が癒されていった。
時々、旅館の近くの温泉に入ったり、ハイキングに出かけたりもした。自然の中で過ごす時間は、心身ともにリフレッシュできた。
数日が経ち、私は女将さんに別れを告げることにした。
「短い間でしたが、本当にありがとうございました。おかげさまで、少し元気を取り戻すことができました」
「いいえ、こちらこそ、助かりました。あなたは、本当にいい子だ。きっと、これから良いことがありますよ」
女将さんは、そう言って、温かい笑顔で見送ってくれた。
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