45:赤ちゃんは泣くのがお仕事です
昼夜問わず、二時間から三時間置きにアデライードは泣いた。
真夜中に泣くと、
「ううん~またか……?」と、隣で眠っているフリードリヒも目を覚ました。
しかしそれは最初の十日ほどの話。それが過ぎるとどれだけ泣こうがフリードリヒは起きることが無くなった。
結構けたたましく泣くのだけど、これでよく寝ていられるわねと感心した。
フリードリヒが仕事に出た後、わたしは定期健診にやってきた産婆にその話をした。
「はぁはぁそうですねぇ。男性は一般的に最初だけ、慣れると赤ちゃんの泣き声では起きなくなるようですよ」
「へぇ~羨ましい……」
「何を仰いますか。奥様まで気づかず寝ていたら、誰がアデライードちゃんにおっぱいを上げるんです?
それに男性だけ起きてもおっぱいは出ませんからねぇ。人ってのはそう言う風に役割が出来てるんでしょうよ」
「なるほどそう言う考え方もあるのね」
言われてみれば確かに。わたしが眠っていてフリードリヒが起きたとしても、結局おっぱいを上げるためにわたしは起きる必要があったわ。
「早くても二ヶ月、遅ければ三ヶ月まではこのペースです。
その後はきっと楽になりますが、お一人が厳しいようでしたら、今からでも乳母を雇っては如何でしょうか」
乳母の雇い方には時間制と言う方法もあるそうで、ここ十日ですっかり寝不足になっていたわたしは「考えておくわ」と少し前向きに返した。
夜眠れていないので昼寝をしようと横になれば、うとうととし始めた所で「ほぎゃぁ~」と聞こえてきて現実に引き戻された。
「奥様とてもお疲れのようですが大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないと言うのは簡単だけど、アデライードにはわたししかいないんだもの。頑張るわ」
「それはそうですけど……」
アウグスタは止めたいけど止められないと言う、とても困った顔を見せた。
※
夜の執務室。
「旦那様、少しお話をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
フリードリヒは書類に落としていた目を持ち上げてアウグスタを見つめた。
「実は奥様の事なのですが、アデライード様がお泣きになる度にお世話をなさっておられて、昼も夜も満足にお休み頂けておりません。
このままではきっとお体を壊してしまわれます。どうかお昼だけでも構いませんので乳母を雇って頂けないでしょうか?」
「うん? ここ最近アデライードは夜に泣いていないと思ったが?」
「いいえ泣いておられます。
恐れながら旦那様が気づかずに寝ておられるだけですわ」
「しかし泣けばかなり大きな声だろう? 流石に寝たままと言うのは無いと思うのだが……」
「これは産婆の受け売りですが~」
「……なるほどな。夜はすっかり泣かなくなったと思っていたがそうだったのか。
よし明日俺から執事に伝えておく。よくぞ言ってくれたな、ありがとう」
「ご理解頂けて感謝いたします」
産婆には最初からその伝手があったようで、翌日の昼になるとすぐに乳母がやってくるようになった。
こうしてリューディアの睡眠不足はすっかり改善した。
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