40:とっくに忘れていた人
「最近ザロモンの商店が勢いを増しているんだ」
「はあ……」
誰だっけと曖昧な返事をしてからやっと記憶が繋がった。
夜会で無礼を働いた上にそれを逆恨みして、そして船の契約を盾にとって謝罪を要求してきたあの嫌な奴だわ!
「以前に黒い噂があるとお聞きしましたが、公的に何か調査が入ったりはしないのでしょうか?」
「これはオストワルト子爵経由で聞いた話だが、どうやら調査は入ったようだぞ。
だが証拠が繋がらないと言うことで不問となったそうだ」
「んー無知な質問かもしれませんがご容赦ください。普通は帳簿を調べればお金の流れはすべて追えるものではないでしょうか?」
いまはアウグスタに引き継いでやっていないけれど、以前わたしはそのつもりでお手伝いをしていた。どこで何を買い、どれだけ売ったか。それらを伝票から帳簿へすべて転記していき財務局に提出する。
財務局ではその帳簿を元に税金が決まったはずよね?
だったら書いてあるはずよね。
「リューディアの言わんとすることは解らんでもないが、馬鹿正直に伝票に奴隷なん人でいくらと書く奴がいると思うか?」
「そう言えばそうですね」
もう一つの噂の阿片だって同じ。どちらも違法な品だからきっと名前を変えて伝票に書かれているのだろう。
いいえ伝票さえ発行していないのではないかしら?
そうして隠した金は、何か適当な品をあらぬ金額で売れば回収できる。となると共犯者がいるのかも?
「あいつが狡猾なのは異国で買い付け異国で売り捌くことだな。
この国の中ならばもう少し調べも利くだろが、異国ですべて終わっていれば調べるのは容易ではない。
おまけにあいつ程度の商人では、調べた労力に見合う金が回収できるわけでもないとすれば、大々的な調査なんて見込めないのだろうよ」
「うう~ぅ!」
「突然どうした子犬のように唸って?」
「わたしは真面目に商売しているフリードリヒ様が、あんな卑劣な男の下に見られるのが悔しいのです!」
「はははっ下か。
それならば大丈夫だ。社交界で噂になっているとおり、奴の信頼はとっくに最底辺さ。あとは大貴族辺りが不満を漏らせば、奴が買った男爵位は没収になるのではないかな」
「ああ。そう言えばお金で買える男爵位だけは、他の貴族から〝彼に貴族の資格なし〟と異議申し立てが出来ましたね」
「その通りだ。
ただ裏で糸を引いている貴族がいると簡単には行かんだろうがな」
やっぱりフリードリヒ様も共犯者の存在を疑っているのね。
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