36:お友達に頼る

 わたしが懐妊した事は、唯一の、そして年を越えたお友達のオストワルト子爵夫人ことデリア夫人にだけ、手紙でお伝えした。ついでに手紙には、顔が広いデリア夫人の伝手を借りたいことも書いておいた。

 するとすぐに『ぜひ伺うわ』と先触れが返ってきた。

 本来ならば若輩のわたしが伺うべきなのだが、妊婦だからと周りがやたらと心配するので今回は有難く甘えさせて貰った。


 さて幾日も経たないうちにデリア夫人がやってきた。

 土地事情が厳しい王都にあるフリードリヒの屋敷には、伯母様の屋敷のように洒落たテラスなんてものはない。

 わたしは来客用の応接室にデリア夫人を案内して貰った。

「ようこそいらっしゃいました」

「こんにちはリューディアちゃん。

 ああ立ち上がらなくて結構よ」

 挨拶の為に腰を上げようとしたら慌てて制されて、わたしはため息交じりにソファに再び腰を落ち着けた。

「あらなんだか物憂げなため息ね、どうかしたかしら?」

「実は妊娠が分かってからと言うもの、皆が過保護になっていて少し参ってます」

「あらあら。こんなことは滅多にない事だし、素直に甘えたらどうかしら」

 伯母様にもそう言われた。

 だけどフリードリヒ様が忙しそうに働いているのを見ると、甘える気分なんてすぐに消し飛び、逆に手を貸さないと~と途端に落ち着かなくなるのだ。

「へえ男性のお仕事を手伝っているなんて凄いわねぇ」

「いえそんなことはありませんよ」

 そもそもの話、うちの場合はそっちが発端だから褒められると反応に困る。


 さて雑談に区切りがついたので本題を。

「デリア夫人、お手紙でもお伝えしたと思いますが、どうかわたしにデリア夫人の伝手をお貸しください」

「あらまぁ、わたくしに出来ることなら良いのだけど……」

「実は二つありまして、先ずは一つ目ですが、王都こちらで信頼できる産婆を紹介してください」

「それはお安い御用だわ。後で紹介状を持たせてこちらに来させるわね」

「ありがとうございます」

「それで? もう一つは何かしら」

「先ほど申し上げた通り、わたしは以前よりフリードリヒ様の仕事を手伝っていました。ですがこうして身重になると、彼が心配して手伝わせてくれないのです。

 しかしこのままではフリードリヒ様が体を壊してしまいます。そこで計算が得意な侍女がいたら紹介して頂きたいと思いまして……」

 今後の事を考えて、フリードリヒから侍女を一人雇うことについて了承を貰っている。そしてその人選も任されているから、だったらと言う話だ。

「あらそれはどうして侍女じゃないと駄目なのかしら? だって従業員を増やす方が簡単でしょう」

「実はフリードリヒ様の商店は従業員が目一杯だそうで、あと一人でも増えれば税金が上がるんです」

「ふぅんそう言うのもあるのね。

 いいわ。パッと思いつく子は居ないけれど、リューディアちゃんのお願いだもの、絶対に探して上げるわ」

「重ね重ねありがとうございます」


 さて紹介状を持った産婆はその日のうちにやって来た。見た目はかなりの老婆だが、受け答えも足腰もしっかりしていてとても丈夫に見える。

 おまけに彼女はデリア夫人の息子夫婦の子供も取り上げたそうで、言われてびっくり、それってニコラスウのことじゃない!?

 そりゃあ老婆なわけだわ。

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