11:いい天気ですね
借りたドレスは夜会の時間に間に合うように屋敷に届くことになっている。
ドレスを持ってくる人が、そのまま着付けをしてくれる手筈となっているので、わたしは普段着のワンピースでそれを待つだけだ。
部屋で待っているとノックがあり、フリードリヒが入って来た。
「リューディア少し良いだろうか?」
「はい、なんでしょうか?」
「今日の夜会ではこれを着けてくれないか」
そう言って差し出してきたのは、細かいダイヤが散りばめられたエメラルドの首飾りだった。
中央のエメラルドの大きさから考えるに、これは高いわね。
「このような高価な品を贈って頂けるのですか?」
「ああ悪い、言葉が足りていなかったな。
これは売り物だ」
「はい?」
「売り物だと言った。
リューディアの瞳は綺麗な緑色だからな、君が着けるとこれはよく栄えるんだよ」
「つまり宣伝と言う訳ですか」
「そういう事になるが……、えーと悪かった」
「いいえ謝罪には及びません」
フリードリヒはどこまで言ってもフリードリヒだった。
でもまぁ一瞬でも喜べたんだもん、良い夢見たと思うべきよね。
わたしはフリードリヒの手を借りて夜会の会場内を歩いていた。
会場の雰囲気は以前の子爵令嬢時代と変わらず。それもそのはず男爵も子爵も呼ばれる夜会の質なんて大差ない。
彼は知り合いを見つけると声を掛けてわたしを妻だと紹介した。
初めましてなので、先ずはお祝いの言葉を貰い、続いてよく結婚できたなと彼を揶揄した。その後の流れは決まって天気の話でもするかのように、最近の景気について話し始める。
会う人会う人、必ずそうするから流石に気になって訪ねてみた。
「会う方に必ず景気の話をするのには意味があるのでしょうか?」
「ああそれはな、景気のよい奴らを知っておくと、その後の流れも読みやすいんだよ」
「後の流れが読みやすいですか?」
「例えばそうだな、先ほどレストランが流行っていると聞いたが、その男の店だけならばそれきりだが、他の奴らも同じとなれば話が変わる。
外食が増えたと言う事だから、今後は肉や野菜を卸す商売が儲かるだろうな」
「なるほど、そう言う意味でしたか」
説明に納得して頷いていたら、不思議そうな目が向けられていることに気付いた。
「あの、何か?」
「いやリューディアには商売の素質があるのかもしれんと思っただけだよ」
「それは買い被り過ぎでしょう」
むしろ今の会話でどうしてそう思ったのか疑問を覚えるわね。
「いいや少なくともそこらの令嬢よりはあるぞ」
自信満々にそう言われてもねぇ?
そう言ったことが皆無な令嬢と比べて上と言われても、喜んで良いのか悪いのか判断に苦しむところじゃないかしら。
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