第5話 進学(5)
二
ピコピコピコと跳ねるようなゲーム音が本殿の中に響く。源郎は手元にゲーム機コントローラーを握りしめて画面の前で睨み合いっこをしていた。画面の中で自分に操作されているアバターは窮地だ。自分のバイタルは後残りわずか。しかし敵の数は圧倒的に多い。争う術もなく、目の前にゲームオーバーの文字が並ぶ。
「…っだぁーー。負けたぁー」
ゲームコントローラーを床の上に投げ出してゴロンと背中を床に伸ばした。横を見ると、縁側から先に橙色と青色の景色が広がる。黙々と動く雲が視界を過ぎていく。もうすっかり秋になってしまった。一年というのは本当にあっという間である。自分の体も案外長く持つものだ。ふと通り過ぎた隙間風に体を震わせる。そして、誰かがこの社に近づいてくるのを察する。すぐに源郎は警戒心の瞳色を宿し、床に寝そべったまま表の方を見る。
「……………」
表から、上がってきた人物はヒタヒタと歩き、源郎の目と鼻の先で立ち止まる。首を傾げて、にっこりと笑った。
「こんにちは、
「………誰だ、てめえ」
怪訝な顔をして見つめると、相手はにっこり笑った目の隙間から瞳を見せた。刹那、源郎の全身に電撃が走った。手先から足先まで、隈なく進んだ電撃のおかげで源郎は瞬時に体を起こす。が、一足遅かった。相手は簡単に源郎の背後へ回ると首に刃物を立てる。源郎の額に汗が垂れる。
「てめぇ………ジュリエットか」
「ご名答。遥々やってきましたよ。向こう側の世界から」
ジュリエットと言われた少女は軽く源郎の首筋に刀筋をつけてから、目の前に座り直した。丁寧に正座をして彼の双眼を見つめる。源郎の首筋から一筋の血が流れた。
少女は、どこにでもいるような身なりでピンク色と白色の混じったシンクのようなワンピースを着ている。ショートヘアーの髪の毛が柔らかく揺れた。
「久しぶりといっても、私はちらっとしかあなたを視たことがないからちゃんとは知らなかったんだけど、良かった。合ってたみたいだね。ふふふ」
口元に手を当てて笑う姿は、大切に上品に育てられたお嬢様そのものだ。
「……っ全く、てめえはこんなところに何しに来たんだよ」
源郎は胡坐をかく。
「てめえの目的は?なんだ。何がしたい。これから何をしでかすつもりだ」
「あらやだ。凄く凄く私に興味があるの?」
「ちげーよ。俺様の領域を汚すなっつってんだ」
「………目的も何も、私はいつだってロミオを探しているだけよ。それ以外の目的も、野望も、野心も、何もないわ。私はただ、ロミオが見つけられればいいの。そんなこと、聞かなくても知ってるでしょう?」
「それに」とジュリエットは正座を崩して、のっそりと源郎に近づく。
「貴方だって、何か企んでいるじゃない。教えてくれないの? その貴方の心の奥にあるどす黒い計画」
ジュリエットは爪の伸びた指先でトントンと源郎の薄い胸元を叩いた。源郎は無表情のままジュリエットを見下ろす。そして口元から八重歯がきらりと光った。
「っだぁーれが、てめえなんかに教えるかよ、ばーか」
「………ほんと、あんたってかわってないわね」
ジュリエットは一旦身を引くと、立ち上がりワンピースを軽く叩いた。くるりとその場で華麗に一回転して人差し指を伸ばす。
「ねえ、私とゲームをしない? 貴方にとっても、私にとっても、利益のある凄く簡単なゲーム」
「ゲームだと?」
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