第4話 進学(4)
この人たちも、この授業が一番良いってことか。まあ、考えてみれば当たり前のことなんだろうけど………。ここにいる人たちは、俺と舞子以外、皆陰陽師に何かと縁のある人だし逆に考えれば俺たちが例外なだけで………。
「いやぁ、私の授業を取ってる生徒は皆優秀で助かったよ。これで一人でもかけたら私の計画が狂うとことだった」
「計画……ってなんですか?」
「よくぞ聞いてくれたね、天人くん」
目の前でチッチチと征爾の細長い指が揺れる。
う、うっぜーーーー。
「なんと、この対抗競技で優勝したチームには、岡山県への宿泊旅行券が送られるんだよ。岡山といえば、吉備団子、桃、マスカット……それになんといっても湯郷温泉! ああ、行きたい!」
キラキラとした目で遠くを見据え、テンションマックスの教師を目の前にして、天人たちは寧ろ、冷静でいれた。いつもなら、“旅行?やったー!いえーい”と喜ぶ所なのだろうけれど、あいにく岡山へ入ったばかりだし、自分以上にテンションが上がっている人を目にすると、不思議と自分は冷静でいられる。
「そこでだ」と征爾はテーブルに勢いよく手をついて身を乗り出す。
「君たちは普通の人間とは違う。陰陽師だ。ここは、陰陽師の名にかけて、とことんずるをしようじゃないか」
「嫌、ですよ!つーか、なんで名にかけなくちゃいけないんですか⁉︎」
そう真っ先に反対したのはもう一人の名前の知らない先輩だ。彼女の履くスカートがゆらりと揺れる。平均より小さめな身長で、おそらく舞子よりも小さいだろう。髪は腰ぐらいまで伸びて、額で綺麗に揃えられている前髪が束になって動く。
「ずるをするってことは、つまり反則じゃないですか。そんな汚い真似しなくないですよ」
「んー、おかしいなぁー。私のよみだと君はここで“やってやろうじゃないか!”て、燃えている様子だったんだけども」
拳を高らかに突き上げて征爾は首を捻る。
「だ、れ、が、そんなことやるっつーんだよ。私は自分の陰陽師という立場に誇りを持ってる。それを汚すようなことはしたくない」
へぇ………そんなこと考えてる人もいるんだ……。優一郎さんとも花奏さんともまた違ったタイプなんだな。
『彼女は、
強者揃いじゃねーかよ………。
『言っとくけど、陰陽師も半妖も強さ的には、半妖の方が上なんだからね』と佰乃に心を読まれたかのように告げられる。
『半妖はそもそも、妖怪に勝てない陰陽師達の為にできた制度みたいなものだから、本来であれば半妖の力の方があるのよ。それを使いこなせるかどうかは個人差によるけど』
ですよねぇ……………。
俺も、いつもみたいにすぐに頭痛で倒れてへばっていたら、埒があかないよな。早く強くならないと。この力をコントロールできるようにならないと、俺はいつまでもハルに追いつけない。そういえば、あいつ、力どうしてるのかな?源郎に使うなって言われたはいいけど、その後どうしてるんだ?うーん、今度聞いてみるか。
「じゃあ、君は屈辱的な姿を全校生徒の前に晒すんだね?」
「はあ?」
「正直言って、今の私達にこの競技に勝てる筋は一本もない。壊滅的だ。すぐに負ける。それも無様な姿でね。そんなのは嫌だろう? ねえ、みんな?」
『我ながら………この人がお父さんなんて信じたくないわ………』
干渉を使って話しかけてくるあたり、死んでも口は開きたくないのだろう。佰乃が心底苦そうな顔をした。まるで、嫌いな生物を見ているかのように。天人は笑って返す。おいおい、実の娘にこんなこと思われてんぞと思いつつ。
「そんな私たちが勝つための手段はただ一つ。そう。ずるをすること! 何、心配いらないさ。誰も傷つけないし、気づかれない程度でズルをする。それが美しいってもんだろう」
なぁにが、美しいだ。あんたはただ、岡山に行きたいだけじゃねーか。
「緑。君は勝負事が好きなんだろう。だったら、これもそのうちの一つだと思ってくれて敵わない。ここで勝っても負けてものちに何かが影響するわけではない。けれど勝っておいて損はないと私は思うけどね」
「……っち。わかったよ。勝てばいいんでしょ。勝てば」
にっこりと征爾が微笑むのと同時に、緑は準備室の扉を蹴って勢いよく開けた。勢いよくぶっ飛んだ扉は廊下の先まで転がる。三人の全身に虫唾が走った。
「よぉし、てめぇら! 私が叩き直してやるッ‼︎」
この時天人は悟った。ああ、もう後にはひけないなと。そして同時にこう思った。
世の中物騒だな………と、――――――――――。
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