side由美
音楽
いつも通り静かな図書室。
利用客もおらず、今日もカウンターでせんぱいと私の二人きり。閑散としている。
せんぱいはいつも通り絵を描いていると思って視線を向けてみたが、今日は違った。
何やら音楽を聴いているようだ。長めの黒い髪の毛に真っ黒なヘッドホンが隠れかけている。
珍しいこともあるものだなと思いながらせんぱいのほうをじっと見つめる。
やっぱり目立たないように意識しているのかいかにも”話しかけないでくださいオーラ”を出していそうだが、実際そんなこともなく話してみると楽しいし、優しい。
本人曰く、切るのがめんどくさいだけだそうだ。
隠れているけど顔は整っていて、きれいだ。隠れイケメンという奴だろうか。
音楽に熱中できる人ってかっこいいよな、とも私は思う。
別にせんぱいだから補正されているとかではなく、芸術的というか、感性があるというか。
そう考えるとせんぱいってやっぱりかっこいい。
私は流行りの曲とかをたまに聴くだけで音楽とか疎いし、絵もせんぱいに教わったらなかなかできただけでもともとは興味もなかったし。芸術とかとは接点のない人間だったのだろうか。
何聴いてるのかな。とかイヤホンだったら恋愛ものあるあるの体をくっつけて聴くやつとかできたのにな。って思いながらせんぱいを見つめ続ける。だって図書室することもないし。せんぱい絵描いてない中自分だけ描くのも気が引けるし。
そうやってせんぱいを見つめ続けているとこちらの気配を読み取ったのかせんぱいが振り返って左耳のヘッドホンを軽く浮かす。
「由美。どうかした?」
「い、いえ。珍しく音楽聴いてるなーって。」
さすがに『ずっとせんぱいかっこいいって思いながら見つめてました!』なんて言えるはずもなく適当にはぐらかす。
「あ、うん。スケッチブック家に忘れてきたし本読む気分でもなかったから。迷惑だった?」
「…い、いえ。何聴いてるんですか?」
「聴いてみる?」
「へ?」
せんぱいがさっき軽く持ち上げたヘッドホンの片方をくるっと回して私のほうへ向けてくる。
イヤホンとかなら恋愛ものでよく見る展開だがヘッドホンで一緒に聴くなんて聞いてことがない。なんならそんなところが回るヘッドホンなんて初めて見た。
「なんなんですか、そのヘッドホン」
「なんかデザイン好きだったから買ったらできるらしい。まぁ実際だれかと聴くなことなんてないから使ったことないけど」
そう言って先輩はヘッドホンの先をカチカチ回しながら『聴く?』と確認してくる。
さらっと私が初めてというおいしい情報をくれてこれはもう生唾を飲み込んで即答する以外の選択肢はなかった。
「お願いします…」
そう言って先輩と椅子を近づけ、背もたれ同士が背中合わせになるようにして、せんぱいと一緒の音楽を、せんぱいの使っていたヘッドホンの片耳を借りて聴く。
いつもより距離が近く、ドキドキしている心音が伝わっっちゃったら恥ずかしいなって思いながらうれしく思う。
せんぱいの選曲は少なくとも学校では習っていないクラシックで、味があってきれいだなって思ったし、クラシックを聴くせんぱいもかっこいいなって思う。
こんな時間がいつまでも続いたらいいなと思いながら、耳元から流れる旋律と背もたれ越しの先輩に身を委ねた。
絵描きの図書室 自由らいく @Raikdam
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