第8話
携帯をもう一度開く。よく見ると、二〇一七年の八月十日だった。どうしてこの年のこの日なんだろうか。じっくり考えても、心当たりは見当たらなかった。仕方なく畳の端に置かれた鞄を探り、そこから着替える服を取り出す。リビングからテレビの音が聞こえる。この日はおじいちゃんの家に泊まりに来ているらしい。
「あ」
思い出した。もしかしたら……そういう事か。心当たりはあった。それもものすごく大きな心当たりが。すっかり忘れていたけれど、あれは八月十日だったのか。
この年は夏休みに、県外のおじいちゃんの家に遊びに来ていた。たぶん三日間くらいだったはずだ。記憶に間違いがなければ、今日の夜に男友達から例の連絡が来る。
健太と別れるのだ、今日。
前回のタイムスリップから三ヶ月ほど経っている。何か法則があるのか、それとも偶然か。それに、
「残り、三日」
タイムスリップの期限のことなのだろうか。十二時ぴったりにタイムスリップが起こったから、きっと一日ごとにタイムスリップが起こるはずだ。もしあと三日ならば、私がタイムスリップできるのは、あと二回だ。その二回で健太を救えるかもしれない。
頭を捻って考えたところで、所詮は予想に過ぎない。だけど、もしもの話を信じるしか、今は他に出来ることはない。携帯で健太とのトーク画面を開く。私が昨日の朝送っていたらしいメッセージには、まだ返信が返ってきていなかった。このときの私を想い、少し悲しくなる。別れる直前だから返信が遅いのは仕方がないのかもしれないが、昔はすぐ返信が返ってきていたのに。
今考えても、どうせ健太と連絡が取れるのは夜だ。とりあえずはリビングに早く行かないと、ご飯が冷める前に。すっくと立ち上がり、服を急いで着替える。襖を開けて、リビングにつながる廊下に出ると、美味しいご飯の匂いがした。
「チリンッ……」
リビングとは反対側の廊下から猫が軽い足取りで近づいてくる。きんただ。
「きんた!よしよし、こっちおいで」と私が手招きしたのに、猫のきんたろうは首を傾げて私の前を素通りする。
「ええ」
いつもならすり寄ってくるのにおかしい。そう思って、追いかける。何かを察知したきんたは立ち止まって振り返ってきた。私が手を伸ばして、頭を撫でようとした瞬間、
「シャーーッ」
きんたろうは歯を剥き出して威嚇した後、お風呂場の方へと逃げていった。いつもは人懐っこいのに、どうしてだろう。
私はこの時間の人じゃないから、そういう事だろうか。
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