第7話
その日の夜、私はだんだんとこれが夢なのではという考えを諦めていた。この夢のようなタイムスリップをいよいよ本格的に考えなければならない。夢の中の可能性もあるが、健太の死がショックすぎて頭がおかしくなった、というのが妥当な気もする。あるいは本当に過去に戻っているのか。
まだ何もわからない。それでも、もし、もし時間が巻き戻ってるとしたら──
ベットの上で天井に向かって手を伸ばす。
もし未来が変えられるのなら、今度は絶対健太を死なせない。そう心に強く誓った。
伸ばした手を下ろし、枕元にあった携帯のロック画面を開く。そこには健太との写真が写っていた。
今日はこんなに仲良かったのにな
そう思いながら、携帯を再び閉じる。
健太と別れたのはこれから大体三ヶ月後のことだ。共通の友人から健太が別れたいって言ってるという連絡が来て、直接会うわけでも電話をするわけでもなく。たった二通のメッセージのやり取りでこの関係はあっさりと終わってしまった。辛くて悲しくて、でもどうしても嫌われたくはなくて、原因も何も聞かずに別れてしまった。
そんな心配を他所に、別れたあとも健太は頻繁にメッセージを送ってきていて、私のことが嫌いだから別れたかったわけではなかったんじゃないかと思ってる。そもそもその数日前からあまり連絡もとってなかったから、気付かないうちに、二人の仲は冷めてたのかもしれない。
まあ、今となってはわからないけれど。
そんなことを考えているうちに、時計の針はすでに十一時五十九分を差していた。あと一分。日付が変われば、状況が何か変わるのではないかという期待があった。
「チッチッチッ……」
部屋には私の息遣いと針の動く音だけが響いていた。あと、十秒。その瞬間、視界が歪みぐらつくのがわかった。キーンという大きな耳鳴りに近い音が頭に響くと同時に、意識もどんどん遠のいていく。
すると耳鳴りが急に止み、「ジジッ」と電気コードを繋いだときのような音がした。
「残り、三日」
と機械のようなカタコトな声が頭に響いた途端、私の意識はブツリと完全に途絶えた。
「ミンミンミン……」
「ミーンミンミンミンミン、ジジッ」
外がうるさい。暑い、暑すぎる。
やけに長い夢を見た気がする。
そう思ってゆっくりと目を開けると、そこには見慣れない天井があった。
携帯を慌てて探す。畳の上に無造作に置かれた携帯が目に入った。ロック画面を開くとそこには、「八月十日」の文字があった。
「え……」
心臓がドクンと波打つのが分かった。血の気がどんどん引いていく。八月十日、健太の死んだ日。ここはどこなんだろう、そして健太を、健太を早く助けなきゃ。
「おーい、緋色ぉ。もう十時だぞー起きてこーい」
突然、聞き慣れない声も聞こえた。声の主が廊下を歩いてこっちに近づいてくる気配を感じた。心臓の鼓動が速くなる。怖い、どうすれば──
「緋色?開けるぞ」
「ガラガラ……」
咄嗟に身構える私。相手と目が合う。
「……起きてたんか。朝ごはんあるぞ、はよ着替えてこっち来い」
その顔に、言葉に安心して胸を撫で下ろす。声の主はおじいちゃんだった。
「はぁい」
そう生返事を返しつつ、布団から出る。よかった、本当に。心からそう思った。
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