第5話

待ち合わせ時間から三分ほど過ぎた時、

「まだ三人くらい来てないけど、何するか決めよーぜ」と同じクラスだった慎太郎がみんなが聞こえるように大声で言った。みんながぞろぞろとその周りに集まる。

「今日ボール持ってきてないー」

「うちもー」

「じゃあ鬼ごっこ?」

「ケイドロは?」

みんなが口々に案を出す。

「とりあえず鬼ごっこやらね?まだみんな揃ってないし」と慎太郎が言う。

「あーたしかに!ケイドロだと人数変わっちゃうもんね」

私がそう言うと、みんなもうんうんと頷いた。


 前田が現れたのは、鬼ごっこが始まって少し経った頃だった。

「ごめん遅れた」

幼い前田が自転車を降りて、慎太郎のもとへ歩いていくのが視界の端に見える。

「おせーぞ健太」

そう言いながら健太の肩に手を置く慎太郎。

「ん?」

「お前鬼な」

ニカッと笑って慎太郎が前田から全速力で離れる。状況が理解できてないのか、少し固まってから、

「はぁあ?おまっそれはずるいって」と前田は大声で叫んで慎太郎を追いかけて行く。

 なんだか面白くなってきた。そう思って私も鬼から逃げる。楽しかった。本当に昔に戻ったみたいで、逆に前田が死んだのが嘘なんじゃないかとも思った。


「緋色タッチ!」

「え!うわっ」

振り向くと背の低い女の子が走り去っていくところだった。莉子だ。気づかないうちに莉子が私の背後にいたらしい。今度は私が鬼の番だ。追いかけるのはあんまり得意じゃない。

 仕方なく追いかけようと走り出そうとした時、「わあぁ!」という悲鳴と共に「ドサドサッ」と誰かが転ぶ音がした。音の方に視線を向けると、そこにいたのは前田だった。

派手に転んだらしく、白いズボンが泥だらけだ。前田は私の視線に気づいたのか、こっちを見てへへっと笑う。二人の視線が重なった。

「え」

「よし、緋色。2人で鬼だね」

服に着いた泥を払い落としながら私の方に歩いてくる。そこにいる前田は、昔の記憶の中の前田と何ら変わりがなかった。違和感が大きくなる。


これは、夢じゃ、ない?


「緋色?どうかした?」

「え。あ、な、なんでもない!がんばろ……」

前田は少し首を傾げてから、「よーしがんばるぞ」と呟いて、みんなの背中を追っていった。


 私は頭に浮かんだ違和感を精一杯振り切って、みんなできゃーきゃー言いながらタッチしたり鬼になったりしながら遊び回る。

 久しぶりだった、こんな走ったのは。たぶん、これは夢だ。神様が私に見せてくれてる夢だ。そう思おうと必死だった。現実味が増すほど、恐ろしさが込み上げてきて、本当に必死だった。

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