B.A.R

 酒を飲むという状況は、独りか複数人かに分かれる。私は前者を好む。無論後者も好きである。学友、同僚、家族、誰かとともに酒を喉に流し込むのは実に楽しい。しかし前者には数寄がある。特にバーという場所でちびりちびりと酒を飲む行為は、嗜みという言葉で表すのが最適だ。あの静寂の中でしか得られない安らぎがある。

 薄暗くこじんまりとした箱に入れば、マスターの静かな案内に従い空いた席に着く。私はいつもジン・トニックを最初に頼む。二十分ほどかけてそれを飲み、適当なウイスキーをロックで頼む。私はバーで本を読みながら酒を飲むので(これが一般的に適当なマナーかは分からないが少なくともマスターは放念してくれる)、長いと一杯に三十分程もかかる。約一時間強過ごした後、帰りしなにコンビニでカップ麺を買う。自宅でそれを啜ると、金と時間を費やした事実で我に返る。だが不思議と心地よさのみが残る。この中でしか得られない安らぎがある。

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