夏は嫌いだ。一年三六五日を過ごす中で最も忌わしい時期だとさえ思う。殊にあの暑さが気に食わない。ただ気温が高いのであれば問題ない。あの全身に液状のりをぶちまけたような、重苦しくまとわりつく暑さには辟易している。近年は気温自体上がっているという話を聞くが、実家でそれを痛感した。私が純粋無だった十年前の夏の朝は涼しく、窓を開ければエアコン要らずの毎日であった。だが先日実家で迎えた朝はじっとりと嫌味な暑さが充満していた。

 とはいえ「夏という概念」は好きである。真っ青な空の遠くに聳え立つ積乱雲、雷と共に降り出す俄か雨、雲一つない青空に騒ぎ立てるいろいろな蝉の声、紫色の夕暮れに響くヒグラシの声、ごった返す夏祭り会場の人熱ひといきれ。昔は夏自体好きなはずだった。私は別に、これが大人になった証とは思わない。単に夏の冒険的な空気よりも、他の快適さを選んだだけだ。もうすぐ八月が終わる。開放感も覚えつつ寂寥も覚えるのは、まだ私が子供だからだろうか。

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