第4話 恋文—春待月(十二月)
重たく、大きい扉を開けると
天地が分からないほどの
私の胸を
冷たい金属が通り抜けるような感覚になります。
貴方が私の名を呼びます。
貴方の笑顔は
濃い霧のように
上や下に広がり
私は嫌なのです。
貴方が
私を染めていくのが
嫌なのです。
私は怖いのです。
バケモノになるのが。
ほら。
霧はいつの間に雪になり
一面を染め上げます。
貴方と私の距離をもっと不明にします。
貴方の手が、腕が
私の肩に触れて
私を溶かそうとします。
私は
私ではない私が
貴方を傷つけるのを理解しています。
もう
私に混ざり合おうとしないでください。
貴方を
ただただ
愛とは呼べない恐怖があるのです。
私を貴方の全てで
愛さないでください。
貴方の目に映る
私が全てではないのです。
貴方の感じる心が
私の全てではないのです。
時折
私は自分の口をナイフで切り裂いて
笑顔を創り上げているのです。
肩には
抱えきれない傲慢と嫉妬が
血を吐き出しながら鎖で繋がっているのです。
雪が貴方との距離を不明にします。
雪の上には梅の花が
貴方へ続く
春を願う花よ。
春をみることは出来ぬ花よ。
私を置いていけ。
耳は冷たく
まつ毛にあたる雪が溶けて、涙のようにつたいます。
この身体を裂くような冷たさの中にいると
胸が熱くなるのをもっと感じやすくなります。
貴方に抱き締められる温かさより
貴方を想う暖かさを感じていたいのです。
少し歩けば
いつか見えなくなってしまう。
それでもこの道を歩き続けます。
誰にも出逢うことも
すれ違うこともない
この道を
貴方を想いながら
度々、空を見上げて目を閉じるのです。
いつか
この雪と混じって
私も乳白く《しろく》なることを願い
いつか
貴方を抱きしめたいのです。
來宮 理恵
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