第7話 元凶と相対す、しかしそれは夢のように消える

俺はその女の下へと歩く、出来るだけ酔っているように。そして、周りからもバレないように。

少しずつ近寄り、遂に下に着いた。

俺はここまでの力を有する彼女に敬意を払い、全力で立ち向かう。


「【ハガル・ウル・ギューフ】」


破壊の雄牛の力を我に与えよ


「【イス・ソーン・エオロー】」


氷のイバラで我を包み込み


「【ニイド・ハガル・シゲル】」


苦難を打ち破り我に勝利を齎せ


「【ケン】」


《現れよ


さて、仕事はすぐ終わらせて酒を飲もう。

こんな葡萄酒じゃなくて、缶ビーンをたらふく。


グングニル》


さぁ、良い気持ちになってる所悪いけど退場してもらおう。

悪神は最後に倒されるのが運命だ。

槍を構え。あぁ、くっそやっぱり。


「始めようぞ、今から貴様と儂だけの戦争が始まる」


投擲する。笑顔になっちまうな。

その瞬間、その女は驚いた顔をして避ける。しかし。


「グングニルは避けても当たるぞ」


避けた筈のグングニルは反転、女に突き刺さる。


「ぐぃぃぃやぁぁぁあ!」


女に突き刺さると悲鳴を上げて泣き始めた。

なんだ、つまらんのお。


「おい、なんじゃ貴様。こんな張り合いがないんじゃな、こんなのでは楽しめんぞ」


俺がそう言うと女は此方を睨み先に松笠が付いた杖で殴りかかってくる。しかしまぁ、武 武器での攻撃はな。

俺が人差し指をクイとやると女の体を突き破りグングニルが手に戻ってくる。


「ーーーーーーーー!」


言葉にならない声を上げて叫ぶ女に対して途中から薄々勘づいてはいたが。

それは女があくまで酒と狂乱の神でしかないという点である。

どちらも脅威的ではあるが、こと直接戦闘に於いては。


「弱いな」


俺がそう言うと女の琴線に触れたのか殴りかかってくる、そう思って身構えたが杖を振って何かをし始めた。

そしてそれが終わった瞬間に女の傷はまるで夢かのように消え去り、それに驚愕した俺を見て女は妖美に笑いホール全体に聞こえるように告げた。


「この男を殺した人には葡萄酒と一緒に私も味合わせてあげるわ」


そう言った瞬間、ホールに居た全員が敵となった。


「ぐっ!」


突然捕まれたので振り払おうとした瞬間。動けない。それに気づき咄嗟に。


「【ラド】!」


そう唱えてそのビルの別室へと移動した。

くっそ、どうなってやがる。なんだあの力、今の俺は魔術によって力が上がっており。一般人どころか並大抵の英雄でも太刀打ちできない程の腕力をしている筈なのに。それにイバラの鎧が無ければ。


「粉砕されていたっ」


それを証明するかのように掴まれた場所はまだ震えている。何故?何故奴等にあのような力が?あの酒に力が上がる術が込められているとか?いや、だとしてもそれだけの魔術だ。消耗が激しい上に連発はできない。それにあの治癒力は。

俺がそこまで考えていると扉を強引に開けられ、また掴まれそうになるが。


「こなくそぉっ!」


気合いで押し込み、グングニルで軽く消耗させる程度に叩く!

しかし、その結果は意外と呆気なくぶっ飛んだ。

先程の腕力と違い、防御面では特に上がっていない様子。なら行けるか?いや、でもあの数は脅威的だ。一体ずつなら行けるだろうが。

しかし、またしてもその思考は途中で遮られる事になった。


「くそ!またかよ!」


次は何体も入ってきた。見る限り4.5.6と、どんどん増えている。

流石にコレは無理か!そう思い、やけくそで魔術を唱える。


「【ニイド】!」


俺がそう言うとそいつらはぶっ倒れ、なんとか助かった。しかし、もしかして殺してしまったんじゃと思い顔を見てみた。


「すっげぇ安らかだ」


その顔は誰が見ても分かるほどに素敵な寝顔で、酒が入っていたらもう少しだらしないよなぁと思った。しかし、違和感に気づく。


「でもこいつら酒、飲んでたよな」


そう、酒を飲まなければ先程のような風に操られない筈。しかも血色がいい、なら俺は何を欠乏させた?あっ、そうか。そうだったのか。


「もしかしてアルコールを欠乏させたのか」


俺はその結論に辿り着いた。コレは使えそうだ。そうと決まれば。


「【ラド】」


俺はそう言って最初のホール、その上の一番高い所へ移動した。

よし、ここならいけるかな?


「【ニイド・フェオ・ラド】」


欠乏の病は繁殖し、それらは旅をするだろう


俺がそう唱えるとホールに居る奴等が病に感染する。そしてそれはどんどんと広がり、遂には。


「なんで!なんで全員倒れているの!」


全ての人を眠らせることに成功した。

しかしこのままだと後々に影響するから。


「【ニイド・ハガル・ウイン】」


欠乏の病は絶滅し、人々はそれを喜んだ


とりあえず後始末はオッケー、そして最後にアイツか。


とりあえず。


「ほれ」


そう言って俺はまたグングニルを投げつける。

すると女はそれに気づかずに背中から突き刺さる。


「ぐぅぅ」


しかし少し慣れたのか今度は少しの呻き声で耐えた。

女は立ち上がりグングニルを上に投げた。

一瞬何してんだ、そう思ったが。


「グングニルか!」


俺の元にその特性を利用され、位置を特定されてしまった。

こうなってはもう隠れる必要が無いのでそこから降り、女と向かい合う。


「初めましてか、デュオニューソス。儂の名前はオーディン」


俺は爺のような口調で話しかける、案外この喋り方って威厳でるからな。

それに対してデュオニューソスはくすくすと笑いながら。


「こちらこそ初めまして、オーディン。まったく、とんだご挨拶ね」


そう言うとその女の傷はまた夢のように消え去ってしまった。

これはどうやってやってんだ?

この女、主神じゃないにしろ能力の使い方が上手い。いや、俺が下手なだけか?

俺が考え込むと女はまたもくすくすと笑いだし、タネを話す。


「これね、実を言うと治してる訳ではないのよ?」


突如としてそんなカミングアウトされても困る、俺がじゃあ怪我はしてるのかと聞く前に。


「怪我をしてる訳でもないわ。」


そこまで言った所で俺は遂に気づく。

女のその体はどんどんと薄く消え始めた。

何がどうなってんだ!?


「私は確かにデュオニューソスよ?まだ分からない?」


女はそう言っても俺は、いや。もしかして、もしかしてそうなのか?俺は自分の仮説を話す。


「もしかして、俺は既に酔っていて。これは夢、そういう事か?」


俺がそう言うと女は今度はくすくすとでは無くニッコリと。


「正解、実を言うと貴方はこの葡萄酒の匂いを嗅いだ瞬間に倒れた。それで私がそれを見つけたって事です」


俺が何故そんな事を。

そう聞き正す前に女は消え去り。


「また会いましょう♪」


俺は目が覚めた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とある海岸沿いの倉庫



「ぁぁぁぁぁぁぃぁぁああああ!」


醜い女の叫び声が鳴り響く。

女はこう思う、何故私が。この夜の王が。私は選ばれた者では無かったのでは?


女がそう考えていると足音がした。

そして、その方向を見ると。


「どうも、名も無き神。その一柱よ、ご機嫌いかが?」


女は現れた者の名を叫ぶ。


「デュオニューソスゥゥ!貴様ぁ!」


「貴方にその名で呼ばれたくないですわ、お黙りなさい」


名前を呼ばれた女は底冷えするような声で命令した

その瞬間、名前を呼んだ女は何も口をきけなくなり。ただ憎悪に塗れたその目で睨みつける事しか出来なかった。


それに満足したのか女は笑顔になり、今日会った事を話し始める。


「今日、私の夫に会ってきました」


そう言う女の顔は本当に幸せそうで、まるで初恋をした少女のようだ。

続けて。


「本当にかっこよかったんですよ、その正義感と闘争心。本当にあの頃のようで、私夢見てるみたい」


その時の顔と言ったら!と、夫の事を話す女はどんどん1人で盛り上がっていく。しかし、その表情はどんどんと暗いものになり。突然。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!なんなのあの女!突然私の夫によりかかりやがって!殺してやるぅ!考えうる全ての手段で不幸にしてやる!私の!私だけの夫だぞ!」


突然の怒り、その怒り具合と言ったら近くの海が荒れ。暴風が巻き起こり、それを直で受けた自称夜の王は。


「ひっ、ふぇぇぁぃぁ!ぁぁmjmtpagdtmtmpjp」


発狂した、しかし。


「させませんよ♪」


そう言うと女は夜の王になにかしたかと思うと夜の王の目には光が戻ってきて正気に戻った。


「ふぅ、満足しました♪コレからも定期的に来ますので、私の愚痴に付き合って下さいね」


自称夜の王はもう何をしてでもいいから逃げたい、なんなら死んでも良いし発狂も良いかなとすら思ってる。しかし、彼女に目をつけられた。それだけでもう死ぬ事も発狂する事もない、彼女の気が変わらぬ内は。


「あぁ、早く戻ってくれないかな♪昔の貴方に、早く戻ってね」


旦那様新目 慧

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朽ち果ての神々 乙女サリイ @sodecaxtuku

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