とんでもねえ奴だ

「ゲヒッ!?」


蟷姫とうきの蹴りを背中に受けて、忍者ザルが悲鳴を上げる。しかも、枝を掴み損ねて地上に落ちた。


「ゲッ!? グエッ!?」


モロに蹴りを食らって、横隔膜辺りが痙攣でも起こしたか、まともに息ができないようだ。血を吐いたりはしてねえから、肺までやられたわけじゃねえみてえだけどよ。


そこに蟷姫とうきが飛び降りてきて、頭を踏み潰そうとする。が、これは忍者ザルも簡単には食らわねえ。その程度で諦めるほど往生際もよくねえか。


かろうじて躱して飛び退き、長い腕を伸ばして枝を掴み、樹上に戻ろうとする。


ああでも、蟷姫とうきの方が上手だったなあ。枝を掴んだ忍者ザルの腕にまた蹴りを叩き込み、「ベキッ!」と、湿った独特の音をさせる。肉の中で骨が折れる音だ。


「ギャアッ!!」


また悲鳴を上げて、それでも忍者ザルはもう一方の腕で枝を掴み直し、体を持ち上げる。いやはや、しぶとい。人間だったら腕の骨を折られた時点で心も折られて情けない顔をするところだったかもな。


だが野生の獣ってのは、諦めが悪いんだ。腕が折れようが脚が折れようが、体が動くうちは生きようと足掻く。忍者ザルもそうだった。


手が使えないなら足で枝を掴み、蟷姫とうきの追撃を躱す。


ははっ! やるなあ!!


でもよお、蟷姫とうきの怒りはそんなことじゃ収まりそうにないな。躱された蹴りを木の枝に引っ掛けて自分の体を持ち上げ、忍者ザルに追いすがる。


すると忍者ザルも、折れた腕さえ木の枝に引っ掛けて複雑な機動を見せ、彼女のカマを紙一重で躱す。が、蟷姫とうきも諦めちゃくれねえなあ。


カマが空振りした反動を使って体を縦回転させ、浴びせ蹴りのようにして足を繰り出す。


おいおい、それは俺は見せてねえぞ。自分で編み出しやがったか。


とんでもねえ奴だ。まったく。


しかもその浴びせ蹴りで忍者ザルの足を払い、バランスを崩させた。さらにその所為で折れた腕の方に体重が掛かったらしく、


「ギアッ!!」


とまた悲鳴を上げながら滑り落ちた。


その忍者ザルの体に空中でカマを引っ掛けて掴み寄せ、蟷姫とうきはそのまま一緒に地面に落ちてきた。ちょうど、忍者ザルの頭を下にした状態で。


ああ、見たことあるぞ、これ! 大昔の漫画だ! <飯綱いづな落とし>ってヤツだ!


蟷姫とうき自身も頭を下にしてたが、本能的なものか、忍者ザルの頭を自分の頭よりさらに下にして先に地面に叩きつけ、それをクッションにして自分はダメージを回避してみせた。


「ゲヒッッ!?」


モロに頭から、それこそ自分と蟷姫とうきの全体重を乗せた状態で地面に落ちた忍者ザルの悲鳴は、まあヤバいそれだったな。


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