第15話

はい、冒険者ギルドに依頼を出しながら色々と下準備をして2日が経ちました。この間誰も来ていません。まぁ今作っている物を考えたら逆に良かったのかもしれませんが。


「ススム。これで良いのか?」

「はい、その赤土に石を砕いた砂、藁を解した繊維と水を入れて捏ねて下さい。」


今作っているのは屋根土や壁土等と呼ばれる耐火に優れた素材です。今回は耐火煉瓦に加工する為に水分と繊維を少なくして作っています。この赤土はヤジカさんの鍛冶場が在る場所で採取されたもので、石を砕いたのはベルジュさんです。


特に重要な素材の藁ですが。主食として麦が作られていて良かったです。この世界ではムーギと言うらしいですが。そのおかげで古い藁を手に入れられました。これが無ければコンクリートを目指さないと窯の作成は困難になり、余計に手間がかかる所でした。


これが出来たら後はしばらく寝かせて煉瓦として成型していくだけなのですが・・・・。私うっかりしていたのですよね。この土は何カ月も寝かさないと目的の物にならないという事を忘れていました。1日作業が終わり、その事を今朝思い出した私はお2人に謝罪しました。


「混ぜて置いておけばすぐに出来るのではないのか?」

「中に混ぜた藁を目に見えない小さな生き物に分解して貰わないと駄目なのですよ。そうしなければ火に弱くなってしまいます。」

「ふむ。完成したらどういった状態になるんだ?」

「最初は土の下から黒く変色していきます。それを混ぜながら土を育てて、最後には灰色に近い色になりますね。」

「それはこういう色では無いのか?昨日見た色からかなり変わっているが?」

「えっ?」


驚いたのはこの世界の微生物の活動力です。昨日はまだ混ぜたばかりで赤土の色が目立っていたはずの屋根土が、確認してみると目標にしていた色に変わっていたのですから。しかも土を混ぜていないにも関わらず均等に変化しているのです。元の世界との常識の違いを強く感じましたね。


「・・・これならすぐに使えそうですね。」

「そうか、それでこれをどうするんだ?」

「木枠の中に流しいれ、日干しにします。本当でしたら焼成したほうが良いのですが・・・。求める温度を出すとおそらく使っている窯が崩壊します。焼成はこのレンガが出来たらにしましょう。」

「これで火に強いレンガ?とか言う物になるのだな。不思議な物だ。」

「しっかりと乾かす必要があるので時間は掛かりますけどね。あっこの付近は雨が多いでしょうか?湿気もあまり良くないのですが。」

「まだ雨季には時間が在る。大丈夫だと思うが?」

「あぁ、ここら辺は雨期にならないとめったに雨が降らん。それまで後3月はあるから安心してくれ。」

「なら間に合いますね。どんどん煉瓦を作って干していきましょう。」


必要数の煉瓦を作るのに1週間かかってしまいました。次は炉と炭焼き窯を作る為に整地です。と言ってもこれは切り落とした木の根を掘り起こし、持ちやすく加工して地面を叩くだけですが。


「こうやって地面を固め、土台とします。」

「土を押し固めているのか、かなり固くなるな。」

「鍛冶場の方はさらに石を加工して地面に埋めます。そこに柱を立てて土台にしますね。」

「おーいススム!石持って来たぞ!!」

「ベルジュさんありがとうございます。」


作業を始める前に川の確認を行ってきたのですが。そこには都合よく安山岩が大量に転がっていたのですよね。安山岩とは火山岩の一種で、マグマが地表で急速に冷えて出来上がったものです。耐久性と耐火性が高く1000度の熱を加えても変質しません。鍛冶屋を作るのにはぴったりの建材です。


「形の整っている物を中心で持って来た。後は平たい面がある物だったな。」

「ありがとうございます。面を持っている物を建物の土台に。積み上げやすい形の物を鍛冶屋に使います。」

「まさか石の家がこのように作られるとはな。言われてみれば納得の方法だ。」

「石を固定する為に屋根土も使います。積み上げるよりは丈夫になりますよ。」

「さぁどんどん持ってくるから作業を進めてくれ!!」


とはいえ、人手が足りませんから作業はゆっくりです。ベルジュさんが冒険者ギルドに何度か依頼の確認に行ってくれていますが、どうもどこからか妨害されている様で人が集まらないそうです。あの細い男の仕業でしょうか?それともコーザさんが何かしているのでしょうか?まぁ構いません、いつかは完成しますから。


それからまた1週間程、念の為に長時間干していた煉瓦が良い感じに出来上がって来ました。


「さてススム、これをどのように使うのだ?」

「まずは炭焼き窯を作ります。」

「鋼を作るには炭が必要だったな。」

「えぇ、作るのに時間が掛かるので先にこちらを作って、炭の量産を始めます。」


炭焼き窯は地面に設計図を書き、その上に耐火煉瓦を乗せて屋根土で覆って作ります。固めた土が良い感じに凹んでいるのでそこに直径2m、長さ3mの□と〇がくっついた絵を書きました。


「この線に沿って耐火煉瓦を置き、屋根土で周りを固めて下さい。腰の部分まで来たらまた指示を出します。」

「そのまま上に積み上げるのではだめなのか?」

「熱効率を上げる為に半円形にしないと駄目なのですよ。そこまで厳密にしなくも大丈夫ですが、この後炉を作る時に精度が求められますのでその練習と思って下さい。」

「解った、炉の為ならば頑張ろう。」

「私もやるぞ!!」


窯の組み上げは3日程で出来ました。鍛冶スキルを持つヤジカさんがスキルの効果ですぐに窯の構造を理解して、私の指示を待たずとも作業できた事が大きいですね。炭焼き窯も鍛冶の領分に入っていた事に驚きました。


「ススム、スキルレベルが1になってしまったが、これで良いんだな?」

「えぇ、スキルはあくまで補助。恩恵ではなく道標です。本来であればレベルが低い方が良いのですよ。」

「いまだに信じられんが・・・。だが確かに私の腕は上がっているように感じる。物の出来も良いしな。」

「新しい炉が出来れば、もっと良い物が作れますよ。」


スキルレベルの事については私が教える上での前提として2人に話しています。懐疑的な2人でしたが、スキルレベルの無い私が戦える事、現在鍛冶屋を1から作り上げ、それが2人も見たことが無い物だった事で一応納得してもらいました。後はスキルが無くなった後の変化に気が付いてもらうだけです。


「ではベルジュさん、炭焼の方はお願いします。」

「あぁ任せてくれ!この新しい斧で木を切ってバンバン炭を作ってやる!」

「切ったらまずは教えろ。乾燥と火付けはやってやる。」

「やってやる?これはお前の為の物だろう?」

「・・・・私がやるからちゃんと知らせろよ?」

「解っている。じゃあ行って来る!」


炭の作り方は有名だとは思います。木を窯の中に隙間無く並べて火を着け、不完全燃焼の状態で長時間置いておくのです。すると木が炭化を起こして炭になります。1週間程掛かりますし、蓋をする瞬間を逃しては良い炭が出来ません。ですから焼き始めたら鍛冶屋の作業と並行して1人見守りする事にしています。本来たたら用の大炭と鍛冶用の小炭で分けるのですが、目的は炭素との結合用ですし、火力は魔法で出せるそうなのでそこまではしません。


「さて、ではこちらは反射炉から作りましょうか。」

「反射炉・・・・。何度聞いても不思議な言葉だ。だがスキルが必要な物だと教えてくれている。」

「構造的には複雑では無いのですが。少し計算しないといけませんので作るのは大変ですよ。覚悟しておいてください。」

「それで伝説の金属を手に入れられるならどんな苦労も買ってやるさ。」


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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