第14話
4匹ものホーンウルフを全て持ち帰る事は出来ませんでした。2人で1匹ずつ、解体して肉と皮にして背負い、持ち帰ります。道中襲われなかったのは運が良かったとしか思えませんね、何せ2人共武器を失っていましたから。今後は気を付けないといけませんね。あぁ討伐証明の角は4本きっちりと持ち帰りましたよ?
ギルドで依頼達成とホーンウルフ討伐の報告をするとミリアさんに大変驚かれました。まさか今日登録した人を連れて、ホーンウルフを討伐してくるとは思わなかったようです。そこでベルジュさんが興奮して私の戦い方を話し始めたものですから少し遅い時間になってしまいました。日が傾きかけています。
「急いでヤジカさんの所に向かいましょう。明日からの作業の打ち合わせもありますし。」
「なら私は食事を買って来る。ヤジカの所で食べた方が良いだろう。ススムは1人で先に行って事情を説明してくれ。」
「解りました。」
途中でベルジュさんとは別れ、ヤジカさんの鍛冶屋に向かいます。するとそこにはお願いしていた木材と、何やら人と揉めているヤジカさんが居ました。
「今更どの面下げて来たのかと思えばそんな戯言を言う為か!!」
「おやおや、戯言とは失礼な。高レベルの鍛冶スキルを持つ僕が、スキルレベルの低い君を受け入れてやろうと言うんだよ?君の夢だった王都の鍛冶工房に入る権利も手に出来る。良い提案だと思わないかね?」
ヤジカさんが怒鳴っている相手は、釣り目の線の細い男性でした。話の内容から鍛冶屋なのでしょうが・・・。あの腕では槌を振るっただけで折れてしまうのではないでしょうか?と思えるくらいに細いです。
「その条件がおかしいと言っているんだ!!」
「何もおかしくないでしょう?あなたが私の妻になるだけなのですから。」
おや?あの男性はヤジカさんに求婚している所なのですね。これは邪魔をしてはいけないでしょう。人の色恋に首を突っ込む程私は野暮じゃありません。
「ふん、どうせ私の血が目的の癖しやがって!」
「えぇ、そうですが何か?あなたの一族は常に鍛冶スキルを発現する。それだけでも私達血族の一員になれる資格があるという物です。どういうわけかあなただけがレベルが低いようですが。そこは私の血で補いましょう。」
「気色悪い・・。そんな話はお断りだね!!」
「おや良いのですか?鍛冶工房に2度と入れなくなりますよ?」
「ぐぬっ・・・。」
ふむ、ヤジカさんはどうしてもその王都の鍛冶工房に入りたい。でもこの男はそこに入る人を選別できる程の権力を持っている、と言う事ですか。単純な恋心からの求婚でしたら見守っていましたが。血を取り込むためだけに脅迫まがいな事をしているのは許せませんね。
「ちょっとよろしいですか?」
「なんだ貴様は!」
「私はススムと申します。ヤジカさんの客という所でしょうか?先程から大きな声でお話をされていたので耳に入ってしまったのですが。あなたはヤジカさんを好きでは無いのですか?」
「誰がこんな筋肉女を好きになるものですか。必要なのは血筋だけですよ。」
ふむ、こちらの意思確認は出来ましたね。では次にヤジカさんの方です。夢はお聞きしていましたが、どうしてそこに行きたいのかは聞いていませんでしたからね。
「ヤジカさんはそこまでして王都の鍛冶工房に入りたいのですか?」
「あの鍛冶工房には鉄を超える金属の製造方法があると聞いたんだ。いま人類はどんどん魔物に殺されてる。身を守る為にも今の鉄じゃだめだ。その鉄を超える金属で武器を作らないと・・・。」
「ふふふ、まだそのような夢物語に縋りついているのですか?高レベルスキルを持つ我々ですら作れないそのような伝説の代物、貴方が作れるはずが在りません。」
ふむふむ、ヤジカさんは人類の為を思ってそこに行こうとしていると。まぁ最初から分かっていましたが、私が味方するのはヤジカさんですね。ですがその伝説の金属が気になります。
「その伝説の金属はどのような物なのでしょう?」
「無知なあなたに高レベルスキルを持つ僕が教えて差し上げましょう!!その金属は鉄よりも強靭で、熱を加えれば自在に形を変え、その金属で作った物は長い年月が立っても形が崩れないと言われています。どうです?こんな物、存在するはずが無いでしょう?」
いや普通にありますが?ステンレスやチタンなんかが思い浮かびましたが、おそらくこれは鋼鉄の事でしょう。何せ王都の鍛冶工房で作れるという情報が在るのですから。これは本当に都合が良い。彼女の夢も叶えられますし、ベルジュさんの修行も続けられますね。
「ヤジカさん、この話断っても大丈夫ですよ。」
「っ?!だが私は!!」
「えぇ、大丈夫です。ちょっとお耳を拝借。」{私がお教えしようとした鋼。それが恐らくヤジカさんの求める伝説の金属ですから。}
「何っ!?」
私が耳打ちすると驚いてその場で固まるヤジカさん。おや、男の方は何やら不機嫌な様子。嫉妬でしょうか?違いますね、これは自分がのけ者にされた事を怒っているだけですね。
「人の妻候補とコソコソ密談とは失礼な人ですね。」
「いえいえ、重要な情報を教えて頂きありがとうございました。大変助かりましたよ。」
「ふふん、そうでしょう。何せ僕は高レベルスキル持ちですからね!!」
機嫌が直った様です。かなり単純なお方の様ですね。っと何やらヤジカさんが私に耳打ちして来ましたよ?
{さっきの話は本当なのか?}
{えぇ、私が行っていた鋼の特徴と一致します。違った場合でも別の金属の精製法を知っていますので教える事は可能ですよ。}
{解った。ありがとう。}
密談が終り、ヤジカさんが男性の前に立ちます。男性の方はと言えば自分の提案が断られるとは微塵も考えていない様子。
「それで?答えを聞かせて頂きましょうか?」
「断る!!」
「えぇ、えぇ、そうでしょう。でしたらすぐに荷物を纏めて私と一緒に・・・・。なんですって?」
「断ると言った!!私がお前の妻になる事は無い!!とっとと帰れ!!」
「良いのですか!!貴方の夢が潰えますよ!!!」
「お前の提案を飲むくらいなら人類が滅んだ方がマシだ!!帰れ!!」
「くっ!!覚えていなさい!!」
まるで悪役の様な台詞を残して去って行きましたね。去り際に私の事を睨んでいたのが少しだけ気になりますが・・・。まぁ大丈夫でしょう。多分。
「すまないなススム。私の事情に巻き込んでしまった。」
「いえいえ、ヤジカさんはこれからここで鍛冶屋として大成して貰わないといけませんから。そのお手伝いをするだけです。では早速、炉と炭焼き窯をどこに作るかから考えましょうか。」
「伝説の金属を作り上げる場所から、自分で準備する事になるとはな。だがこれが出来たら人類は魔物に対抗できる!!期待しているぞススム!」
「作るのはヤジカさんですからね。私は教えるだけです。まぁ手伝いますが。」
「おーい!!ヤジカ!!ススム!!飯買って来たぞー!!」
ベルジュさんも合流してまだ日が出ているうちに炉と炭焼き窯の場所を決めました。後は私が構造を思い出しながら設計図を書き、それを作り上げていくだけ。そう思っているとベルジュさんが私に木の板を渡してきました。
「ススム、これからやる事には人手が必要なのだろう?だったら冒険者ギルドで依頼を出さないか?」
「依頼ですか?まぁ確かに人数が居た方が作業は捗りますが・・・。私はそんなにお金を持っていませんよ?」
「なぁにそこはヤジカが出してくれるだろ。なっヤジカ。」
「自分が使う炉の作成に掛かる費用だ。もちろん私が持つ。」
「そうですか、では依頼しましょう。でも依頼主は私で良いのですか?」
「ススムしか作り方が解らないんだ。任せる。」
「と言う事だススム。この木の板に依頼内容を書いてくれ。明日一番で持って行こう。」
「では書いておきますね。」
これで人数が確保できれば、完成までの時間が短くなります。後は天気さえよければすぐに作業に取り掛かれますね。さてどれくらい集まってくれるのでしょうか?
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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