入道雲
真っ青な空にふくらむ入道雲へ向けて、守屋さんはスマホを構えた。ぱしゃ、とシャッター音が鳴る。
波止場から見る空は大きい。周囲に視界を遮るものがないからか、波止場の先まで行くと青空を独り占めできそうな気さえしてくる。
「ねえ」守屋さんは後ろにいるテンちゃんへ向き直った。「この間子どもたちから聞いたんだけど、ここより眺めの良い場所があるって本当?」
テンちゃんはあからさまに渋い顔をした。
「……ばあさんから聞いたことねぇのか」
「何を?」
「岬には行くな、って」
「ああ! 危険なんだって? 亡くなった方もいるって……そこのことだったのね」
「森の横道を入ると岬に出る。学校の帰り道だからガキの頃は寄り道がてら遊ぶんだ。俺も、……そうだった」
暗くなった声音を察したのか、守屋さんはスマホをしまってテンちゃんの隣に並び立った。
「でも危ないんでしょ?」
「そうだよ。だから凛花も行くな。……行かないでくれ」
顔を背けるテンちゃんの表情は私からも守屋さんからも見えない。だけど声が、震えているの、守屋さんにもわかったと思う。
「……亡くなった方、もしかして知り合いだったの?」
テンちゃんはしばらく黙ったままだった。守屋さんが話題を変えようと口を開きかけたとき、ぼそりと答えは返ってきた。
「知ってるだろ、端の平の……」
テンちゃんがゆっくりこちらを向く。今日も真夏日だというのに、その顔色は蒼白い。
「――千穂。俺の、幼馴染みだった」
……テンちゃんが私の名前を呼ぶのは、いったい何年ぶりだろう。
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