切手

 守屋さん宛の封書が届いた。端数の切手が無造作にべたべたと貼られた、あまり気分の好くない封筒だった。二階の部屋を訪ねると守屋さんは差出人を見て少し驚いた顔をした。

「父からだわ」

「父親いたのか」

 声に出してから、テンちゃんは見るからにしまった、と口許をおさえた。

「悪い、無神経だった」

「いいのよ」

 顔を青くするテンちゃんとは対照的に守屋さんはさっぱりと笑う。

「うちの父、あまり誉められた人じゃあなくて。だから母も離婚したんでしょうけど、母が他界して、私も父のもとには行きたくなくて」

 だからこの島に、と彼女は続けた。守屋のおばあさんは、守屋さんのお母さんのお母さんだそう。守屋さんがひととおり話し終えると、テンちゃんは改めて「悪かった」と謝った。

「そこまで言わせるつもりじゃなかった」

 守屋さんは予想外、とでも言うように目をみはって、そしてまた笑った。今度は柔らかく。

「いいのよ」

 私は隣のテンちゃんを見上げる。守屋さんのほうだけを見つめる、その横顔を。

「っていう話をね、越してきた初日、手伝いに来てくれたご近所さんにしたら、次の日島中の人に広まっててびっくりしちゃった」

「あー……」

「だから本当に気にしなくていいの。みんな知ってるんだから。天司君だけよ? わたしの過去を知らないの」

 守屋さんが引っ越してきた当時、テンちゃんは高校の寮で暮らしていて、島には寄りつかなかった。帰郷した日も、きっとそれどころではなかっただろうから、今日この日までテンちゃんが知らないのも無理はない。

「でも」守屋さんはテンちゃんの目をじっ、と見つめ返す。「わたしも天司君のこと、なんにも知らない。島の人は『よそ者』のわたしにそういう話をしないから」

 だからわたしたち知らない同士ね、と守屋さんは微笑んだ。

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