くらげ
テンちゃんのお父さんは足が悪い。数年前、バイクで転倒事故を起こして以来、片足をひょこひょこ引きずりながら歩くようになった。そして、その事故で入院が決まった日が、テンちゃんの高校生活で唯一、島へ帰った日だった。
「悪いな、天司。付き合わせて」
「いいよ」
タオルを頭からかぶって縁側に腰かけるおじさんはどうも疲れているみたい。テンちゃんはそんなおじさんの代わりに庭の朝顔へ水をまいているようだった。ホースからシャワー状に放たれる水飛沫が、きらりと虹をつくって眩しい。
「身体を動かさんと衰えるばかりだし、動いたら動いたで誰かの手を借りるはめになる。どうにもうまくいかんなあ」
「ちょっと早い隠居生活だとでも思っとけよ」
おじさんへ背を向けたまま、テンちゃんはまだ背の低い朝顔へ水を遣る。
「天司、あのまま都会に出たかったんと違うか」
しゃわしゃわと、水音に合わせて蝉が鳴き始めた。
「悪いな、付き合わせて」おじさんはもう一度同じ台詞を言った。
「つらくなったらいつでも出ていっていいんだぞ。家のことは気にするな。海を漂うくらげみたいに、好きに生きていけ」
テンちゃんのお父さんは昔から穏やかな人だった。私はおじさんが声を荒らげるところを見たことがない。
「午後の配達、端の
「は? 親父、無理すんな」
「こっちの台詞だよ。お前を端の平には行かせられんて。な?」
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