第3話,ごー・とぅー・ざ・にゅーわーるど

その日、浩一の元に長い付き合いの【THE BOUNDARIES】プロデューサーからのメールが届いた。


顔も知らない彼が、こっそりゲームのアップデート情報を流してきて意見を求めてくるのは珍しく無い事態となっていた。


最早考えるより前に目の前のマイクに向かって声をかける。


「ちょっと大事なメールが来たみたいだから一旦ミュートしますねー」


それに対してコメント欄はざわつき始める。


『おっと、グリムが大事なメールということは、、、!?』

『【THE BOUNDARIES】のリーク流れてきたか!』

『リークwwwてか最早開発からの業務連絡だろwwwwww』

『うおおおおおお!グリム先生俺たちに新情報エサをお恵みくださいッ!!』


などなど、最早開発からのメールであることはバレバレであった。


因みにグリムと言うのは彼のアバターの名であり、グリムフォロワーは彼の事を先生と呼んで親しんでいた。


そんな声を視界の端に追いやりながらメールを開くと、そこにはある意味では想像通りで有り、ある意味で想像を超える内容が記されていた。


内容は大まかにこうである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


親愛なる同士、グリム君へ


常日頃から君には大変お世話になってきたね。


私が君の言葉やプレイにどれだけ励まされたか君は知る由もないだろう。


どれだけ言葉で伝えても1/3も届かないこの感謝を示すにはどうすればいいのだろうか。


私が考えた結論はこうだ。


君に【THE BOUNDARIES】を送ろうと思う。


画面の向こうに手を伸ばすことのできない不完全な世界では無い。


真の意味での【THE BOUNDARIES】を。


いずれ、その世界は他の者達も向かう事になるだろうが、その頃にはでの君の人生はとっくに終わってしまっているだろう。


しかし君に続く彼らは、正しく今画面の中にある世界に降り立つ権利を持つことができる様になると信じている。


つまり君にはでのゲーム環境の構築をお願いしたいんだ。


色々考えたが私はまだこの世界でやることがある。


私の愛する【THE BOUNDARIES】を託せるのは君しかいないと確信している。


添付されたデータを開けば扉が開かれる。


どうか君がこの話を受けいれてくれる事を願っている。


君のただ一人の親友、【THE BOUNDARIES】プロデューサー、貴島きじま亮平りょうへい


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「およよ?何これ?」


熱烈な、そして唐突な感謝の文に謎の言葉。

何言ってるのか全然分からないけど、不思議とどれほど真剣にこの言葉を紡いでいるかは理解できた。


しかも文末の氏名である。


このゲームのプロデューサーは貴島プロと呼ばれ名前を公開していなかった。


何度も個人的なやり取りを交わした浩一でさえそれはトップシークレットだった。

それがどうだ、最後に記された名前は冗談に思えないのだ。


「と言うか、確認取ったこともないのに友達いないの知ってるのは流石だね!!」

(でも態々『唯1人の』って強調しなくても良いんじゃないかな!?)


メールには二つのアイテムが添付されていた。

一つは文面にあった添付したデータとやらだろう。


みたこともない拡張子で馬鹿でかいサイズであり、そのサイズは何と、


「わーお!32TB!ウチの配信用に特注したPCの拡張しまくった容量でも結構ダメージでかいんですけど?」


もう一つは、ごく普通のPDF形式のファイルだった。


ファイル名は『この世界を離れるにあたって知っておかなければならないこと』だった。

こちらは即座に開いて中を改める。


するとこのPDFは36pほどの説明書であると言うことがわかった。


因みにこれらの作業を行なっている間でもゲームの手は止めていない。


飽くまでミュートしているだけであり配信停止などあり得ないからだ。


マルチタスクはゲーマーの基本的な技能である。


「ふむ、ふむふむ、、、!ふむ?おおおぅ!!?いや、いやいやいやいや〜」


それは説明書であり指示書でもあった。


要約すると添付されたデータは異世界への扉であり、インストールして起動すると【THE BOUNDARIES】に酷似した世界へと転生することになるという。


そこはゲームの本編が開始されるより前の時代、スキル研究がまだ不十分で探索者シーカー達の立場が確立されていないような状況だと言う。


彼はかつてその世界と波長が合ったせいか交信してしまいその世界を垣間見た。


それは最初は断片的ながら、いつしか毎夜夢の中で鮮明に異世界の情景を見る事になる。

彼はその世界に心を奪われ異世界を再現する事に取り憑かれた。


そして初めて異世界と繋がってから5年の歳月が経った頃、彼は【THE BOUNDARIES】を創り出した。


自分の愛する世界をより良いものにするためにアップデートを繰り返し再現度を上げ、いつしかリアルな異世界の未来の姿のシミュレーションと言えるほどに完成度が高まった頃、夢の向こうから『神』を名乗る者が接触を図ってきた。


此方こちらが異世界を覗いていたのと同様に彼方あちらもまたこの世界を、彼を観察していたのだと言う。


神は鮮烈な程の速さで発展する彼が生み出した【THE BOUNDARIES】の世界をなんとか自分の世界にも利用できないかと考えた。


そしてこう考えるに至ったと言う。


異世界地球からゲーマー達を連れてきてこの世界に放ったら、勝手に発展するんじゃないか?と。


彼は神のその考えに同意した。


それこそ【THE BOUNDARIES】のエンドコンテンツに相応しいと。


だが現実の異世界はゲームに比べてあまりにも発展していない。

この世界の人間からするとそこは7バージョンも前の世界だからだ。


快適なサービスに慣れた日本のゲーマー達を招くと不満が多くなるだろう。


さらに言うと、余りにも現地人と転生者達の間に技術的差が有ると現地人が差別されてしまうなんて最悪の結果も考えられる。


これは【THE BOUNDARIES】のエンドコンテンツでもあるが、飽くまでも異世界の発展の為の措置であり、転生者達が好き勝手に踏み躙って良いゲームの世界娯楽ではないのだ。


それにいきなり大量の転生者が現れれば混乱は必至だ。


だから彼等はこののお試し版が欲しかった。


異世界転生のα版と言ったところか。


そこで白羽の矢が立ったのが浩一だったのだ。

この世界へのリスペクトに溢れ、トップクラスの実力がありながら対人戦を嫌い、孤独に耐性があり、まぁ他はなかなか失礼なことが書かれていた。


何よりも貴島と個人的な親交コネがあると言う点が決めてとなり今回のオファーとなったらしい。


「コイツはかなり凄いことになってますね!!貴島さんがハッピーになるお薬を鼻から吸引したのでなければすっっっごい楽しい事になるぞぉ!」


異世界への招待!


それも前人未到の第一転生者である。


メールには更に浩一に求める事が綴られていた。


まず異世界で探索者としてある程度地位を築く事。

後に続く者達のためにも探索者と言う存在の地位を上げてほしいとのことだった。


次に未熟な異世界人のスキルに対する考えを変革する事。

異世界では未発見のスキルが多く、またオリジナルスキルの考え方が知られていないらしい。

これを周知のものにして欲しいとのことである。


そして、これらの事と並行して転生者と言う存在の周知を行う事。

今後必ずくる異世界からの大量の転生者達の受け皿を作ることは急務である。


まぁこれらはどれも可能であればやって欲しいということであって絶対ではない。


究極の話何も達成できなくてもそれはそれとしてデータとして有効だからだ。


メールの最後にはこう書かれていた。


『色々言ったが、結局のところこれは私から友である君へのプレゼントと思って欲しい。君が異世界を心から楽しむこと。これが最も大切なことだ。願わくば君の行く末に幸あらんことを』


「嬉しいなぁ!こんなこと言われたら、逆にやる気が湧いてきちゃうよね!!」


つまるところ異世界人達に見せてやれば良いと言うことだろう。

スキル研究と探索者がどれほど面白いなのかということを。


「そうと決まれば準備が要るね!!」


扉のインストールにはその馬鹿でかいサイズ故に時間がかかる。


表示される予想時間は何と36時間。


だが異世界に行く準備をするとなると十分な時間とはいえないだろう。


浩一は早速動き始めるのだった。


「さて、ミュートをオフにして。えー、みんなお待たせです!突然ですけど今日はこれから予定変更して別アカで初期キャラ育成を始めます!!」


これから36時間後、世界一有名なゲーマー『グリム』こと槇村 浩一が突如として配信中に失踪すると言う事件が発生。


彼の自宅周辺の監視カメラ等にも一切の痕跡はなく、現代の神隠しとして世間を騒がせる事になる。


最後の瞬間に彼が放った言葉の意味を人々が知るのはもう少し後の話であった。


「それじゃあ皆んな!一足先に行ってきます!!皆んなも向こうで楽しもうね!」











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親愛なる友人へ、


貴方からのプレゼントは受けとりました!


これから僕はこの世界を旅立ちます。


最高に楽しい人生を送って見せます!!


それでは、別れの挨拶はこのくらいにして、


異世界での活躍をお祈りください。


グリム


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あとがき失礼します。


ここまで私の作品を読んでいただきありがとうございます!


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