第6話 スターゲイザー 〈3〉

 デュークは自身のファディカに手を添えて一言ぼそっと呟き、透明になっているバスタービル———アーセナルの透明化を解く。

 フィディカと連携して操作ができるバスタービルを物珍しそうに見続けるカナリアに対して、「そんな物珍しいものでもねぇだろ」とデュークはぼやきながらコックピットに乗り込もうと足を運ぶ。

 しかし、ハッと何かを思い出し足を止め、カナリアの方を見つめて気だるげな顔をする。


 カナリアは「……どうしました?」と問うが、デュークはこちらを向いて肩を落とし大きなため息をついた。


「…………そういえばお前の輸送方法考えてなかったわ。コイツに乗せるのだけは俺の気が乗らねぇしなぁ───」



 輸送……?俺を荷物かなんかだと思ってないか?と、鼻につく言い方に対してカナリアは不信感がよぎるが、それをも掻き消す思わぬ言葉にカナリアは聞き逃すことなく噛みつく。


「バ、バスタービルに乗せてもらえるんですか!?!?」


 瞬間移動でも使ったのかと勘違いするほどの上々たる身のこなしでデュークとの距離を詰め、目の中に銀河を浮かべ目を輝かせてデュークの腕をガッチリと掴む。

 少年の頃から追い求めていた大きな夢―――バスタービルの現物を見たいという願望は叶ってしまったが、まさか今度はバスタービルに乗る機会チャンスができてしまうなんて……こんな夢物語は想像すらしたことがなかった。


 しかし、デュークはその提案に微塵も賛成することなく、むしろ猛反対する。

 おじさんくさい顔をグッと目の前まで近づけ、子供に叱るように罵声を飛ばす



「ハァ?誰がお前を乗せてやるなんて言った!?お前みたいなガキがコックピット入ってくるなんて想像もしたくねぇ!」


 相変わらず距離感の近いデュークに怖気付くも、自分にも引くに引けない野心に駆られたカナリアは対抗するように弁明を行う。


「そんなこと言わないでくださいよ!夢にまで見た幻の星遺物に……バスタービルに乗ることができるチャンスなんですよね!ね!?おねがいしますよぉ!」


 カナリアはデュークの腰に抱きついてベッタリしがみつく

 対してデュークはその暑苦しすぎる甘え方に寒気を催し身震いした後、ゴミを見るような目で言葉を吐きつける



「俺が今出会ったばかりのクソガキを乗せてアーセナルを動かせって?おいおい、寝言でも常識あるマシな事呟くぜ。だいたいなぁ、いくらジャックの孫だろうが何だろうがバスタービルのことを何も知らない坊主を乗せて俺に何の徳がある?」


「徳も利も何もないのはわかってますよ!俺は星遺物が好きなただのガキで、ちゃんとした研究の人から見たらお遊び感覚に見えてもおかしくないですけど…………そこを!そこをどうかお願いできませんか!?俺、バスタービルに乗ることが夢だったんです!現代の技術を遥かに超える星遺物の結晶、その代表格といってもおかしくないバスタービルに!!乗るチャンスなんですッ!!そのために星遺物を学び、自分なりに調べ上げてきたんです!」



 オタク全開の早口言葉を呪文のように吐き出しながら急にべったりくっついてきて縋り付くカナリアを前に、デュークは思わず「えぇ……」と若干の引きと動揺を隠せず、後頭部をポリポリ掻いたり目頭を押さえてしばらく頭を抱え考えるなどの長考を挟んた後に、大きなため息を「はぁ…………」とついてから話し出す。



「…………『ダメだ。』と断ったところで引くつもりはなさそうだな。俺はガキの御守おもりをするほど暇じゃない。自分で考えて勝手にするんだな。」


 その言葉にカナリアは小声でよっしゃと呟きながら小さくガッツポーズをとる。

 一方で、厄介な奴と出くわしたことに今更気づいて大きなため息が止まらないデュークは、その大きな手で目を覆い、「なんでちっぽけなおつかいにこんなデカいお釣りが返ってくるんだよ……」と終始愚痴をこぼしていた。


 カナリアの猛烈なアタックによりバスタービル搭乗への許可が降りたが、やはり気になるのは乗り方だ。コックピットは人体で表すとうなじの部分に位置している。バスタービルはしゃがむ気配すらないし、操縦士パイロットであるデュークも、バスタービルを動かそうとするそぶりを見せない。


「あの〜、乗せてもらえるのは嬉しいんですけど、コックピットに乗るにはだいぶ距離ありませんか?これどうやって乗るんです?」


「あぁ、そうか……、そこから説明しなくちゃならねぇのか。……まぁいい。」


 デュークは基礎の基の字から説明しなければいけない状況に行き場のない怒りがこみ上げるも、自分が種をまいたことに後悔と嫌気が差し、大きく肩を落とす。

 ポケットからヨーヨーのような形状の物体を取り出す。黄緑色で身を包んだ物体は、窪んだ内側が蛍光色になっており淡い光を放っていた。


「星遺物『コックラッチ』。こいつで飛ぶんだ。」


「コックラッチ?聞いたことない星遺物ですね……。」


「そりゃ見たことないだろう。こいつは星遺物基軸機器じゃない。、アストラルニュートラルだからな。」


『アストラルニュートラル』

 星遺物がこの地に落ちたその状態のまま使用することができる星遺物の総称。星遺物には大きく分けて三つの段階で構成されており、手を加えないとどうすることもできない原始物体である『フォアプレス』、ある段階まで加工、製造されているが、既に使用済み又は使用限度に達した物体である『ユーステッドパーツ』、技術者の介入なしに、星遺物そのままの状態で何らかの操作が行えるもの又は行えると推測できる物体である『アストラルニュートラル』がある。しかし、いずれも星遺物は宇宙そらから降り注ぐ遺物であり、高度な耐久性を有していない限り降り注いだ衝撃で破滅してしまうものがほとんどである。よって、アストラルニュートラルが発見されるのは非常に稀な事案である。



「アストラルニュートラルの実物!?な、何でそんなものまで……!?」


「何で何でって疑問ばかりぶつけやがって、面倒くせぇな……。とりあえずそこら辺の話が聞きたいならアジトに行ってからだ。グダグダしてる暇もない、行くぞ。掴まりやがれ。」



 カナリアはデュークから差し出された手を取ると、そのままぐいっと引っ張られて彼の胸に引き寄せられる。

 おじさんの風格に似合わない香水の匂いと、汗を含んだ男臭に揉まれて鼻がムズムズする。



「……下手な真似したら落とすぞ。」


 デュークは脅し文句を放った後、コックラッチを両手で掴みカチッと音が鳴るまで両サイドに捻る。

 コンピューターのファンに似た回転音が内部から聞こえ、蛍光色の光が機械の隙間からプロジェクションマッピングのように空へと広がる。

 瞬間———体がフワリと浮き上がる。無重力のような感覚ではなく、意図した方向にワイヤーで吊り上げられる感覚に近い。

 方向操作をしているのはおそらくコックラッチを手に持っているデュークだ。


 ふわりと浮く体は左右に揺れることもなく、ひたすら上空に上っていく。

 速度もさることながら、あっという間にコックピットの目の前まで飛び上がった。

 デュークがコックラッチをしまうとコックラッチの浮遊感はすっかりなくなり、機体の背中にしがみつかなければ滑り落ちてしまいそうになる。

 デュークはコックピットのハッチを開け、カナリアに合図する。


「いいか、お前が無理に意地を通してきたんだ、身の保証はしない。それでも乗りたいって思うなら乗れ。ただ、乗るなら覚悟を決めろ。」



 その言葉を残して、デュークはバスタービルに乗り込んだ。



「『 乗りたいなら乗れ。ただ、乗るなら覚悟を決めろ。』っていわれても、もうここまで来てやっぱ無理は通用しないんじゃないか……?」


 下を見れば骨折だけでは済まない高さに思わず身震いが止まらない。

 煽るような風が吹き付け、俺を何度も落とそうとしてくる。


「……いいや、俺が決めたんだ。俺が乗るって言ったんだ。二言はないよ。」


 ひとりでに固く決心し、カナリアはデュークの操作するバスタービル、『アーセナル』へと足を踏み入れた。







 前傾姿勢になり足元に注意しながら入ると、そこにはガラスどころかモニター一つ見当たらない真っ暗な空間が広がっていた。

 コックピット内はフォーマルな椅子が中央に一つだけ配置されており、機体を動かすレバーやボタンなどは一見してもどこにも見当たらない。モニターもないため外の状況が把握することもできず、どうしたら動くのかすら見当がつかない。

 もっとたくさんのレバーやボタンを使って精密な操作を行うもんだと思っていたのだけれど、やはり星遺物といったところか。操作方法に見当がつかない。

 開いたハッチから入ってくる日の光によって何とか内部構造全体を視認することができるが、ライトはどこにも見当たらずコックピットのハッチを閉めれば真っ暗になってしまう程に光が不足した空間だ。


 デュークはそんなコックピットに軽々乗り込んでは、中央にある椅子に座り込んだ。カナリアは後を追うようにしてバスタービルに乗り込み、ハッチを閉め、デュークが座る椅子の後頭部を背後からつかまるようにして乗った。

 ハッチが閉まると空間は黒一色に染まり、視界情報がすべて奪われる。ハッチの隙間から光が漏れることすらない、完全に真っ暗な空間が出来上がった。

 真っ暗な空間にまだ目が慣れていないというのもあるが、それを考慮しても到底操作できるほどのコンディションにはならないだろう。


 デュークはそんな暗闇の中でぞもぞと音を立てながら一生懸命動いている。本人もこの暗さを不便に感じていそうな気がするが、その姿は全く見えない。……というより、本当に操作できるのだろうかという疑問だけがずっと頭に残る。



 やがてそのもぞもぞ音も消え去り、「いくぞ。」と呟いてひとときの間を置いたのちに、デュークはバスタービルに呼びかけるような、落ち着いた口調で言葉を放つ。




 「バスタービル・フルアクセス。同調ターニング開始。」




 デュークの言葉に対してバスタービルが答えるように反応し、ブゥンと腹部まで響く重低音を奏でながら動き出す。

 機械の起動音と共にコックピット内部に内蔵された複数の青色蛍光ラインが機体前方から駆け巡るように発光する。空間全体を照らすほどの光度はないが、内部の構造や形状が推測できるほどには見えるようになった。


 初めて搭乗するバスタービルに感嘆の声を漏らしながらそわそわしていると、搭乗から今まで何一つ声をかけてこなかったデュークが妙な話を持ち掛ける。


 「ドラハルトのガキ……カナリアと言ったか、俺がどうしてお前のフィディカを見ただけでジャックのジジイが作ったものだとわかったのか、、、どうしてお前のフィディカがバスタービルの声をキャッチして、コイツと巡り合うことができたのか、分かるか?」


 「それは……デュークさんがおじいと仕事仲間だからじゃないんですか?バスタービルの通信内容が俺のフィディカに届いたのは多分、フィディカの型がずいぶん古いからだと思うんですけど…………」


 「……単純な回答だな。残念だ。そもそも今の質問はそれぞれに回答があるなんて言ってないぞ。———俺が今質問した内容はな、一つの答えで結び付けられるんだよ。」


 答えでもないちんぷんかんぷんな返答にカナリアは眉を八の字にして首を傾げる。

そのわずかな沈黙にすら気づいたデュークは嘲笑し、続けざまに語る


 「何言ってるかわかってなさそうだな。正解は……こうだ。」


 デュークは自分が装着していたフィディカを外し、フィディカ本体の一番外側に付随している大きなボタンを押す。

普段このボタンは修理や分解の際にしか使用しないのだが……

押されたボタンはわずかな隙間を作って出っ張り、内部でマナを凝縮、変換させる装置がその奥に見える。

 デュークはその状態のフィディカをコックピット内左前方にある窪みに嵌め込む。



「上手に来いよ!」



 声が聞こえた刹那——プツンと視界の情報が遮断され、途端に体が軽くなる。

全身が世界と切り離され、数多の光が高速で流れる空間の中を彷徨う………………








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流星英傑譚 ブレイヴビート 赤坂 蓮 @akasakaren

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