今日も二人でどうなっつ食う

彩灯快

第1話

「ごめん、もう行く。」

すみれは強くそう言い切ると椅子も引かずに、鞄を強引に取って教室を出ていった。引き戸ががさつに閉められてドンと大きな音を立てた。

卓上にはまだ手が付けられていない英語の課題と、まだ綺麗な参考書が無造作にほおってある。

あんな奴追いかける気にもならなくて、私だけでも真面目にとテキストに取り掛かろうとする。だがどうもイライラが収まらなくて、いつの間にか床が卓上と化していた。

外に目をやる。あいつの姿を探しているわけでは、決して、ない。

窓から差し込む朝日がいやに眩しかった。背けるようにして顔を机にうっぷつす。

最悪の夏休み初日だ。


喧嘩の原因はほんの些細なことだった。

受験に備えて自習するために朝から学校に行った。

仲良し――だった二人が集まれば当然、話の方に花が咲く。

勉強に集中するために、帰りにご褒美を買って帰ることにした。

私は暑いから勿論アイス一択だ。

菫は暑いからアイス以外が良いと言った。ドーナツが良いと言った。

「暑いからアイス以外ってなんで?アイス一択でしょ!」

「ちゃんと考えてよ。暑すぎてアイスなんて持って出た瞬間にジュースになっちゃうよ。いや、消えてなくなるかもね。」

頭に指をトントン当てて、少し小ばかにして様な言い方に少しカチンとくるのをぐっと堪える。

「消えるは言い過ぎ。外でぱっと食べちゃえばいいし。今日はギリいけるっしょ。」

「天気見てないん?今日もいつもと同じ気温に天気だよ、無理無理。それよりドーナツとかの方が良いよ。ひんやりして美味しいのがあるんだよ。」

また小ばかにしたような言い方に少し感情のリミッターが切れる。

「ひんやりもどーせ暑いんなら意味ないんじゃなーい?大体朝から天気見れるなんてさぞかしお受験余裕なんでしょーね。」

そこから、受験のこととか関係のない方向に言い合いが続いた。暑さのせいか意識がちゃんとしないまま、気付いたらすみれは帰ってしまって今に至る。


外の日差しは時間を追うごとに強くなっていく。一人で教室でやったって意味ないしと、家に帰れなくなる前に、朝の内に帰ることにした。

靴を履き替えて外に一歩出ると、熱波が私を襲った。吹く風吹く風が夏の暑い空気を纏っていて穴という穴から汗が噴き出す。

自転車置き部屋に止めておいた自転車にまたがって全速力で漕いだ。

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