4月編

04◆入学式

まだ糊が落ちきっていないYシャツの生地が、固く肌に擦れる。


この感じ…如何にも新学期だ。


上からタキシードのような白のブレザーを羽織って、首にはリボンの代わりにループタイを締めた。

このループタイがまたちょっとキモくて、アガレスの従えているオオタカの目玉が飾りになっているらしい。暗みがかった黄色い虹彩の中心に、無機質な黒の瞳孔が鎮座していて、首もとに目玉をぶら下げるということの気分の悪さを思い知らされた。

実は、これはアガレスが直々にくれた入学祝いのプレゼントで、常時イケメンの姿で居ることを約束してくれたジジイのアガレスは、このループタイをお守りとして贈ってくれた。人間にこんな贈り物をするのはなんとまだ2回目らしい。

しかも、1人目はソロモンなんだって。マジで言ってる?てか鷹大丈夫?両目なくない?


《それだけ期待されてるってこった。羨ましい限りだぜ》

「え?私、期待されてるの?」

《あー…ほら、学校でうまくやれることをさ》


そんな親父みたいなことを…

なんか、悪魔のはずなのに皆割と優しいよね?悪魔って言われる所以がわかんないよ!これなら悪霊の方がタチ悪いって…

ま、期待されてるなら応えるまでよ。折角契約したんだから、悪魔の力をフルに使って最高の学園生活を送ってみせる!

私は生活用品を詰めに詰めまくった激重リュックをもう一度背負い直し、黒のローファーをすり減らしながら歩みを進めた。


「新入生はこちらの書類を受け取ってくださーい!」


国立神霊かみだま学園。シンレーじゃなくてカミダマ。

私は今日から、ここで学園生活を送る。

しかも寮生活だから、華のJKという時間をここに費やすのだ。

過保護な母親には「長期休みには絶対帰ってきてよ!!絶対よ!!」と念を押されたけれど。一人娘だし、心配してくれてるんだろうな。


私は先生らしきスーツの女性からA4サイズの分厚い封筒を受け取ると、『入学式(講堂)はこちら』と書かれた看板に従って講堂に向かった。















入学式って、基本在校生と親も来るもんだと思ってたけど、この学園は違うらしい。おかげで講堂はスカスカだ。

他にも、驚いたことが2つある。


まず一つ。講堂って初めて来たけど、劇場みたいなとこなんだね。

前方に大きな体育館のステージみたいな舞台があって、そこから後方へ客席が段々になって広がっている。ボソボソした素材の布で出来た、一人掛けソファみたいな座席だ。


「学園長式辞。安倍あべの 靖明やすあき学園長、お願い致します」


もう一つは、新入生がまさかの38人だけということ。全校生徒の総数なんか80人にも満たないらしい。

しかもこの学園は、世界に一つしかない霊能力者養成学校なので、日本人だけでなくアメリカ人やインド人らしき外国人も多く居る。世界中からかき集めてこの人数ってことは、世の中にこの年でそれなりの霊能力を持っている人は、本当に少ないんだと思う。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとう。そして、我が校を選んでくれたことに、まずは感謝申し上げたい」


他は意外と普通だ。

“霊能力者らしい”と考えると連想するのが難しいけど、パッと見“如何にも”な部分はない。普通の高校だ。本当にバトルなんてするのかな?ってくらい。私騙されてない?大丈夫?

校長先生だって、頭がミラーボールみたいな普通のツルッパゲおじいちゃんだし。ド普通だ。


「今年で我が神霊学園は、創立8年目を迎える。古来より日本では8を“聖数”としているし、エンジェルナンバーとして見れば『豊かさが訪れる』という大変素晴らしい意味になる。皆さんの力で、是非この数字の意味を体現していただきたい」


既に、個性はだいぶ豊かなんだよね。

まず生徒の服装。金ピカのロザリオを下げてる子が居るし、ファラオみたいなメイクしてる子も居る。色んな宗教の神様を贔屓にしてる人が集まっているようだ。バドルの言ってたことは本当だったな。



そういや入試の時も、面接で贔屓にしてる神様が居るか聞かれたな。

この学校の入試形態は一般入試のみで、学力は成績表、霊能力は面接と筆記で計られた。


筆記は、プリントに印刷されている心霊写真を見て、写っている霊の数や種類・年齢・境遇などを答えたり、CD音源に録音された霊の声を聞き取ったりするというもの。


面接は霊能力の覚醒時期や、周りの理解、将来像、贔屓にしている霊的存在の有無などを聞かれた。霊能力者は霊能力者を見分けることが出来るから、面接官も当然霊能力者。

アガレスと契約した話をしたらめちゃくちゃ渋い顔されたから、絶対落ちたと思ってたけど…何とか受かったんだよな。筆記で霊能力の強さを買われたのか、それともバドルかアガレスが力を働かせたのか…



「今でこそ無くなりつつあるものの、創立当時は霊能力者に対する偏見が色濃く残っていた。というのも、当時は霊能力を持たざる者が人々に嘘の導きを施し、強欲にも金を巻き上げるという“霊感商法”なるものが横行しており、真の霊能力者までもが『怪しい』『インチキだ』と後ろ指を指されるという事態が起こっていたのだ。我々はそんな由々しき事態に一石を投じ、真なる霊能力者のみを育て、世に放ち、国から大々的にアピールをすることで、見事霊能力者の地位向上に成功した。皆さんにも、そのような存在になっていただきたいと強く思う」


うわ、初っぱなかなプレッシャーがすごいなぁ。このおじいちゃん。


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