カードショップ
「綺麗ですね……」
サバサキは、優雅に空を泳ぐ店員に見惚れている≪ねもね≫の頭をフードの中へ押し戻した。
「何するんですか!」
「自分が激レアアバターなことを忘れたのか? カードショップはハンターの目が多い。眼を付けられたら大騒ぎになる。その中で大人しくしていろ」
しょんぼりと肩を落としながら素直に従う。
「まずは受付を済ませるか」
高級そうなボトルが並ぶバーカウンターの横を抜けると中央ステージが見えてくる。その周りには、貝殻型のソファが用意されていた。既に何組かの客は、昼にも関わらず酒をあおっていた。
「ここでは酒も提供するし、買い取りも額も良い。何より女の子が可愛い。一度、来たら抜け出せない。まさに
ステージ上では、今まさに客同士のエキシビションマッチが行われ、アバターたちが火花を散らしていた。店内のホログラムスクリーンにも中継され、戦況が気になった人たちが足を止める。
「うおー‼ オレも混ざりてぇ」
「マスター、目的を見失ってはいけません」
≪ねもね≫が小声で耳打ちする。
「分かっているよ……」
「受付は、あのポータルからだな」
壁際にずらり設置された、腰ほどの高さのオブジェ。アオバはそこにBCDを設置する。「購入」や「売却」の項目が並ぶ中、「ライセンス試験」を選択する。
ライセンスの正式名称は、Certification Card――――通称、Cカード。ダイバーの技能を証明する世界共通規格である。大規模大会ともなると、一定のランクに達していなければ、出場することもできない。
区分は下から順に四つ。
『
『
『
『
アオバの現在のランクは『
より上位のライセンスは、カードショップや教育機関などで試験を受けなければならない。そして、『
「『
「早速だな。じゃあ、サバサキ。また後でな」
「おう」
アオバの番がやってきた。
ステージに上り、看板にもなっていた三角形のロゴの上に立つ。すると踏ん反り返っていた観客たちがざわめきだす。
「おい、あれはアンノウンじゃないか?」
「まさか……おい、マジかよ」
「アンノウンが試験なんて受けてどうするんだよ」
端の席で見守るサバサキは舌打ちする。昼の客足が少ない時間なら問題ないかと予想していたが、どうも悪酔いしている客が多い。
「そんなの『
一瞬、凪のように静まり返った店内にドッと笑いに包まれる。
「コイツは傑作だ!」
「無理に決まっている」
「アンノウンが何を言い出すかと思えば、クハハ」
「な、何が可笑しい⁉」
笑い声に掻き消され、アオバの訴えは届かない。
次第に、間違っているのは自分なのかもしれないという疑念が表情を曇らせる。
「
我慢ならなくなった≪ねもね≫がフードから飛び出してシャウトする。
見慣れないアバターにハンターたちの目つきが変わった。
「夢のために頑張ることの何が悪いんですか。無理だなんて勝手に決めつけないで、もっと応援してください!」
賛同する声などあるわけもなく、ぽっかりと空いた沈黙に緊張感が漂う。
すると、ゆっくりと拍手をしながら眼鏡の男がステージに上がってきた。清潔感溢れるスーツに、恐竜の化石を模したネクタイピンがきらりと輝く。
サバサキはその人物を覚えていた。
「マーシュ店長……」
約一年前、店長に抜擢され、傾いていた経営を立て直した功労者である。一度来た客の顔は忘れず、雑談の中から互いの利益を模索するコンサルタントのような人だ。
「彼女の言う通りです。彼がアンノウンだからといって『
そこまでいうならと観客たちは押し黙る。
「それでは、初々しい彼らの挑戦を見届けようじゃないですか。おい、ソートは居るかい?」
「店長、呼んだ? もしかしてソートちゃんの出番?」
人魚の姿で泳いできたのは、ツインテールの店員――。首にはチョーカー、ネイルもばっちりキメていて、とても接客業が務まるとは思えない。
「ああ、彼の試験官を担当してくれ」
「はい、はーい。DIVEと恋愛相談は、このプリティースーパーコンピューターにお任せあれ。ソートちゃんことディープソートでーす♡」
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