ピスマユル①

「お兄ちゃんって最近楽しそうだね」


 ピスマユルはどこか浮かれて兄に尋ねる。


「楽しいといえば楽しいかな」


 彼は最近手に入れたという宝石を太陽にかざしながら上機嫌に答える。


 真っ黒だった宝石は太陽の光によって7色に輝き、透き通って見える向こう側の風景をより美しく照らし出している。


「この世界って綺麗だよな」


 宝石を見つめる兄の横顔はピスマユルが見たことないほどに輝いている。いったいなにが兄をそこまでウキウキさせているのだろうか。ピスマユルは楽しそうにしている兄に対して違和感を覚えた。


 嬉しそうにしているのだからこちらも喜んでいいはずなのに不安がよぎって仕方がない。


 生まれてからからずっと一緒だった。



 フロンティアという地に生まれ育って、魔法学校であるミニル学園にも一緒に入った。


 だから兄のことはだれよりも知っているつもりだった。それなのに目の前にいる彼はピスマユルの知らない人のように思えてならない。



「それならいいけど」


 なにかを聞きたいのに言葉が見つからない。


 戸惑うピスマユルに兄は大丈夫だと微笑む。


 その笑顔はいつもの兄だったのだからあまり気にしないほうがよいのだと思わせる。


 しかしそれからしばらくして兄は学園を辞めさせられた。


 理由は目に余るほどの問題を起こしたためだという。でもピスマユルにはよくわからなかった。いつも優しい兄。最近浮かれがちだった兄。


 そんな兄が突然暴力的になった。


 現実とは思えず、退学させられたことに衝撃的で信じられるはずがない。だから学園長に抗議来てみたけど取り合ってくれず。兄にも真相を確認しようなもすでに学園を立ち去ったあとで実家にも帰っておらず、行方がわからなかった。



 ようやく再会したときにはすでに兄は息絶えており、ピスマユルに真相が語られることはなくなった。


 それから兄の死にようやく整理がつき始めた頃に再び彼の名が浮上したのだ。


「きっとシャドウの仕業にちがいない」


「なぜそう思う?」


「復讐するためさ。なにせ俺たちが死なせたんだからさ」


 偶然だった。


 兄と親しくしていた人たちがそんな話をしてからだい。


 それを聞いた瞬間、ピスマユルのなかで何かが壊れる音が聞こえた。












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