シャドウ⑤
それからクライシスに関する調査を続けてみたが、学園内にはその気配さえもしなかった。頻繁に起こっていた妖魔が人を襲うということもなく数日が過ぎていた。
フェルドたちはその間ミニル学園の学生として過ごし、クラスにもかなり溶け込んでいる。
とはいえども、クライシスの処理が終わるまでの短期間滞在。任務が完了すれば去らねばならない。ゆえんに深く関わるつもりはなく、ある程度の距離感をとるようにしている。そのことを不思議に思うクラスメートもいるが、ほとんどがさほど気にしてもいない。彼らもまたほどよい距離感で付き合っているからだ。
「シャドウが彷徨っているという噂があるわ」
クラスの中でフェルドたちの事情を知っているエレナがそんなことを言い出した。
「彷徨っている?」
クラスメートの姿はない。教室にいるのはフェルド、エドルフ、そしてエレナだけだった。
もう夕暮れ時で授業を終えた学生たちはすでに教室にいない。
「そうなのよ。昨日校内でシャドウを目撃した人がいたそうよ」
「でもシャドウは死んでるということですよね」
「だからよ! きっと未練がたくさんあったから化けて出てきたのだ」
エレナはなぜか力説する。
「幽霊ってわけか? つうかそんなものいるのか?」
「うーん。ぼくはいると思いますよ。フェルドは信じないんですか?」
「信じてねえよ。もしそうなら……」
バタバタ
突然廊下の方から駆けてくる足音が聞こえてくる。
フェルドたちはなんだろうかと廊下の方へと視線を向けると勢いよく教室のドアが開く。
息を切らしながら姿を現したのは同じクラスの男子生徒だった。たしかスリルという名前の少年だ。
「スリル? どうしたの?」
エレナが近寄ると、スリルはがっとエレナの腕をつかんだ。
「エレナ! 大変だ」
スリルの顔は青ざめている。
「どうしたの?」
「ピスマユルが……」
「ピスマユル? ピスマユルがどうしたの!?」
「フェルド!?」
スリルが続きを話すよりも早くフェルドが突然廊下を飛び出そうとする。
「反応あり! 先行くぞ! エドルフ!」
教室を出る前にエドルフのほうへと振り返ったフェルドの目はまるでおもちゃを見つけた子供のようにキラキラと輝いている。
エドルフが答えるよりもはやくフェルドはその場から消えた。
「フェルド! たくっ。食べ物とこれに関しては目がないんですから。それよりも」
気を取り直して、エドルフは青ざめた顔をしているスリルのほうをみる。
「それでピスマユルがどうしたんですか?」
「ピスマユルが突然化け物になったんだ!!」
「えっ?」
エレナは何を言われたのか分からず呆然とし、エドルフはその瞬間なにが起こったのか理解した。
「とりあえずエレナはスリルを連れて医務室へ向かってください」
「え?」
「僕はフェルド追いかけます。たぶんその先にピスマユルがいます」
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