第8話~企画会議~
ホワイトボードの前では机を囲んで、多くの人間たちが頭を悩ませている。
俺は一人の番組ディレクターだ。
このテレビ局に入社して早十年。
既にディレクターとして多くの番組を手掛けており、特に今担当しているお笑い番組「瞬きの笑い」は、自分の命を懸けてもいいと言っても過言ではない人生の一部だ。
メインキャストは今を時めくお笑いコンビ「グッドモーニング」。
元々漫才師なのだが、一度だけライブで披露したコントが大盛り上がりし、様々なお笑い番組に引っ張りだこ。
総合演出を担当するベテランディレクターの鶴の一言で、彼らの起用が決まった。
放送開始から二年が経過したある日の会議室。
毎週一時間の企画を考えるのも、流石に二年経過すると「マンネリ」という言葉が付いてくる。
レギュラー企画やコーナーは山ほどあるのだが、最近はメインとなるお笑い企画を毎回やっている状態となっている。
それはディレクターたちも危険水域に突入していると感じたため、メインに代わる新企画を考えるべく、プロデューサー・ディレクターが全員集まったのだ。
俺はいちディレクターとして、発言権を持っているため、頭を抱えて悩んでいる総合演出に
「例えば、ゲーム企画とかどうですか」
「何かいい案でもあるのか?」
「はい。例えばピンポンダッシュをモチーフにしたゲーム企画とか」
「なるほどなぁ」
それはあくまで頭に降りてきた案を言っているだけだ。
もちろんそれが通るとは考えていない。
すると総合演出がホワイトボードを見つめてから
「良い企画を思いついたかも」
「なんですか?」
「例えば、ものまね番組のモチーフ企画なのだが、マニアックな物まねを披露してくれる企画とか。細かすぎて伝わりにくいやつとか」
「それ他番組が既にやっています」
「え?」
総合演出は目を見開きながらも言った。
お笑い番組にパロディはいいが、パクリ企画はNGだ。
自分たちの色を出さずに、他の番組の色をそのまま持ってくるのは失礼なことだ。
だが、総合演出はまるで認知してないかのような表情で言ったため
「あの先輩。ほかにあります?」
「そうだなぁ・・・じゃあ人間ボウリングとかどうだ」
「それは他の番組でもやってますね」
「違うよ。ただのボウリングじゃないよ。お前たちが玉になるんだよ」
「は?」
何言ってんだこいつ。
人間ボウリングは演者がそれぞれ投げ役・玉役になるから面白いのにスタッフが出て来たら、もはやそれは演者のストレス発散になるだけなのだ。
俺は戸惑いながらも
「あの、俺たちが玉になって面白いですかね?」
「そりゃ面白いだろ」
あくまで総合演出は真剣な表情だ。
これはあまりにも企画が思いつかなさ過ぎて、疲れているんだと思い
「それじゃあ、何か簡単なゲーム企画とかどうでしょうか。シンプルも良いと思いますよ」
「それだったらじゃんけんだ」
「じゃんけん?」
「そうだ」
「じゃんけんして、その後は」
「・・・それだけだ」
「罰ゲームとかは」
「ない」
「出来れば作った方が」
「いらない」
「・・・一旦休憩で」
俺はそんな休憩合図を送れるほどの立場ではないが、それでもこれはまずいことになりそうだ。
絶対に総合演出は疲れていると思いながらも、無理やり休憩に入ることにした。
他のスタッフたちはため息をしていた。
俺がため息をしたいくらいだった。
~終~
柿崎零華のコント新作集season1 柿崎零華 @kakizakireika
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