第42話 高みの見物

 思う存分遊んだプール施設を出たところで、時間は夕方近くになっていた。空はだいぶ薄暗くなってきているが、雲はそれほど多くなく天候に問題はなさそうだ。


 というわけで、次の予定もすでに決まっていた。


「──じゃ、本日のメイン! 花火大会を楽しもー!」


 そう言って歩き出すのはメイ。今度は4人でお台場の花火大会を観覧することになっていた。

 会場に向かう道中は既にかなりの人でごった返していたが、俺たちはそんな人々とは逆方向へ歩いている。


「これ歩くのも大変だな。みんな大丈夫か? はぐれないようにな!」

「ほーい!」「はい、お兄様」「大丈夫ですっ!」


 俺が先導する形で道を作り、メイたち三人が続いて後ろを歩く。

 そうこうしているうちになんとか人混みを抜け、ようやく落ち着いて歩けるようになった。


 そして俺たちがたどり着いたのは──メイの住むマンションである。


「ただいま~! はいみんな入って入って~!」


 メイに促されて家に上がり込む俺たち。帰りがてらスーパーで買ってきたお菓子やら飲み物やらをテーブルに置いていく。今日はまだご両親は不在とのことだ。


「おにーさんお疲れっ! 荷物持ちもありがとね!」

「湊お兄様、道中大変助かりました。ありがとうございました」

「湊お兄さんのおかげで迷子にならずに済みましたっ。ありがとうございます!」

「どういたしまして。いや、本当にすごい人だったな」

「アハハそれね! 花火大会なんてどこ行ってもヤバヤバな激混みだもんなー。中学の頃さ、みんな浴衣で別の花火大会観に行ったときとかホントヤバかったよねー!?」

「ああ……あのときは本当に……帰るのも困難で……」

「はぐれちゃうし、浴衣も汚れちゃうし、み、みんな大変だったよね」


 思い出の花火大会を共有しているらしく、うんうんとうなずきあうメイたち。俺はちゃんと花火大会観に行ったこととかないけど、テレビの特集とかでもすげーもんな。


 なんて話をしながらみんなでコップ等の食器を用意していく。桜森さんが全員分の飲み物を注いでくれる中、善知鳥さんがお菓子を配ってくれながら言う。


「あのっ。み、湊お兄さんは、花火大会とかよく行くんですか?」

「や、ちゃんとした花火大会っていうのはなかったよ。地元にいた頃はたまに小さな夏祭りに参加してたくらいかな。花火はこっちに越してきた年に初めてちょっと覗いたけど、人があまりにすごくて怖くなっちまって、すぐ退避しちゃってさ。やっぱ東京の人口おかしいって」

「わ、わかりますっ人多すぎてコワイですよねっ!」

「ふふ、東京一極集中と申しますからね。やはり落ち着いて観覧したいところではありますが、ずいぶんと前から席を予約購入しておく必要がありますし……」

「そーそーしかも高いしねー! むふふっ。その点ここからは落ち着いて花火が楽しめるのです!」


 と言って、リビングのカーテンをサッと開くメイ。

 大窓の向こうには東京の街が煌びやかに映っていた。桜森さんと善知鳥さんがキラキラした目で景色を眺める。


「いやーまさかメイの家からも花火が見えるとはなぁ。ちょっとズルいかもしれないけど、この辺のタワマン住みの特権って感じだな!」

「えっへへへ♪ これがメイちゃんチートです! ゼッタイどこよりもイイ特等席っしょ! さぁ褒め称えろ~!」

「ははーお嬢様」

「ふふ、さすがはメイお嬢様です」

「えっえっ? あ、さ、さすがメイちゃん! カッコイイ! カワイイ!」

「うむうむ、くるしゅうない! では各自コップを持て! 花火大会を高みの見物といこうぞ!」


 わけわからんノリで笑い出すメイに、俺たちもつられて笑い出す。

 それから全員で乾杯をした後、花火が始まるまではダラダラと何気ない会話タイム。プール終わりってやっぱ眠くなるよなぁという俺の発言にみんな笑って同調してくれて、やっぱこういうのは世代関係ないんだなとなんとなくメイたちとの距離感が縮まったような気がした。

 

 そこで桜森さんが話を切り出す。


「そういえば朝比奈さん。月末には湊お兄様とご旅行と聞きましたが、もう予定は決まったのですか?」

「あっうん! もう旅館の予約もバッチリ済んだし、往復の新幹線もおにーさんが粘って安いのゲットしてくれたんだー! 行きは途中下車しつついろいろ楽しむ予定! ねーおにーさんっ?」

「あっ、わ、わたしもそのお話聞きたかったんだ! お兄さんの地元に行くんですよね? も、もしかしてもう、ご両親に結婚のご挨拶を……!?」

「ぶふぉっ!?」


 ちょっと噴き出しかける俺。結婚!? いやいやなんでそういう話に!?


「ちょ、待った待った! 善知鳥さんが考えてるようなことはないよ! それに事情があって俺の実家には戻れないからさ、普通にただの旅行だよ」

「あっ、そ、そうなんですねっ。でもでも、きっと同じ部屋で二人きりで……お、お布団も一つで……!!」

「善知鳥さん!? おーい善知鳥さん!?」

「アハハハ! うとうとって小説とか好きでさ、昔から想像力豊かなんだよね~。自分でお話作るの得意なんだよっ」

「それが善知鳥さんの素敵なところですよね。ですがその、最近は少し想像に偏りが出てきたような気もしますが……」

「あっ、ほら花火もうすぐ始まるよ! うとうとしっかりー!」

「──はっ!? う、うん! ごめんなさい!」


 というわけで、いつの間にやら花火大会がスタート。


 メイのマンションから文字通り高みの見物をさせてもらうことになったのだが、いざ花火の打ち上げが始まると思わず声が出た。

 東京の夜空へ次々打ち上がっていく光の色彩。こちらにまで響く迫力の音。

 マンションから観る打ち上げ花火も十分に見応えのあるもので、桜森さんも善知鳥さんもめちゃくちゃはしゃいでいたし、メイもその大きな目をいっぱいにキラキラさせて花火を観ていた。さらにメイは窓を全開にすると桜森さんと善知鳥さんをベランダへと連れだし、キャーキャーと声を上げる三人。なんていうか、JKたちの青春を覗かせてもらってるみたいでちょっと恥ずかしい気もしたんだが──


「ほらおにーさんも! こっちこっちっ! ベランダのほうがよく見えるよ!」


 戻ってきたメイに手を掴まれて外のベランダへと連れ出される。窓一枚の隔たりがなくなるだけで、花火の迫力はずいぶんと増した。


「うわーめっちゃキレイ! おにーさん見えるアレ!? ヤバくないすっごー! あっまた次のくるからちゃんと見ててっ!」

「わかったわかった。ちゃんと見てるって!」


 なぜか俺の手を掴んだまま離さずに夜空へと熱い視線を送るメイ。俺も花火へと視線を移し、しばらく素直に感動することにした。

 プールで遊んだ後に花火大会なんて、学生の頃は一度も経験したことがない青春っぷりだったが……間違いなく今夏の思い出になる一日だと思った。

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