第40話 お墓参りとプール日和

──メイがハワイから戻ってきて、また慌ただしい夏が再開した。


 八月も半ば。お盆の時期ということもあって、今日は朝早くからメイと一緒にメイのおばあさんのお墓参りにきていた。まだ比較的涼しい時間だが、夏雲が浮かぶ青空は今日も日本を明るくしたるぜとばかりに眩しく輝いている。


「──ほら、東京って7月がお盆じゃん? おばあちゃんの新盆は先月終わったばっかなんだけどさ、おにーさんも一緒ならおばあちゃんも喜ぶかなって!」


 港区の綺麗な墓地に来た俺は、水のたっぷり入った手桶と柄杓、それに掃除用のブラシを手に、仏花を持ったメイの後ろを歩く。


「そっか。それは嬉しいけど、こういうのって部外者も一緒にお参りしていいもんなんかな?」

「別にいいんじゃない? てかおにーさんはおばあちゃんの部屋にも泊まったし、今はおばあちゃんちに住んでるんだから部外者じゃないっしょ」

「言われてみりゃそうかも」

「むしろ行かないとおばあちゃん怒るかも。お盆だし、お家に化けて出てきたりして! 孫娘とイチャつきおって~挨拶くらいしにこい小僧~って!」

「ツッコみづらいボケやめてくれ! てか小僧とか言うタイプなの!?」

「アハハハ言わない言わない! でもおばあちゃんホラー系の映画とか心霊番組とか動画マジ好きだったからさ、こういう話してたら喜ぶよきっと。死んだらあたしの誕生日に化けて出て祝うとか言ってたなー。あと動画サイトのやらせっぽい動画には辛辣コメントとか書いてたよ」

「思ったよりファンキーな方だな……」


 なんて会話をしているうちに、『朝比奈家』の墓前に到着。

 メイと一緒にお墓の掃除をして、花を生け、おばあさんが好きだったというお饅頭をお供えし、線香を焚いて手を合わせる。


 それからメイは、おばあさんのお墓をバックに俺たちのツーショット自撮りを撮影した。墓参り報告を兼ねてご両親に送るらしい。墓参りでもキメキメ笑顔でバッチリポーズしているところはメイらしいと思ったし、おばあさんが喜んでいるような気がした。


 お供え物をそのままにせずしっかり回収して、帰り支度は完了。ご両親からも『お疲れさま』のメッセージが届いた。


「うっし、じゃ帰ろっかおにーさんっ! 今日は一緒にきてくれてありがとねっ」

「ああ。俺としても一度、メイのおばあさんのお墓にはちゃんとお参りしたかったしさ。来られてよかったよ」

「へへ、これでおばあちゃんにちゃんと認められたんじゃないかな? それにおにーさん、パパとママからも割と信頼され始めてると思うしさ」

「そ、そうなのか?」

「じゃなかったら身内のお墓参りとかさせないし娘と旅行とか行かせなくない?」

「言われてみりゃそうかもパートⅡ」

「アハハハ! じゃ、帰ってお昼ごはん食べたらプール行こっか!」

「プールなんて小学生の頃以来行ってねーけど大丈夫かなぁ。桜森さんと善知鳥さんもマジで迷惑がってない?」

「がってないがってない! むしろ喜んでたって。みんなでおニューな水着お披露目したげるから楽しみにしててー♪」

「なんか今から緊張してくるわ」


 なんて話をしながら墓を後にする俺たち。それから最後にもう一度だけ、メイのおばあさんの墓に会釈をしておいた。


 

 ♡ ♥ ♡ ♥ ♡ ♥ ♡ ♥ ♡ 



 それからメイと一緒に昼食を済ませた後、お台場の屋内プール施設に到着。入り口で待ち合わせていた桜森さん善知鳥さんと合流した。


「二人とも、今日はよろしくね。ていうか、本当に俺も一緒でいいのかな?」

「はい、もちろんです。今日のことはとても楽しみにしておりましたから」

「うんうん! わたしもです! だから昨日はあんまり眠れなくって、えへへっ」

「ほらね? 二人とも喜ぶって言ったでしょ? それに女三人だとナンパとか面倒でヤだしさー。おにーさんがいてくれると助かるんだよっ」

「あーなるほど。そういう意味もあるのか。じゃ、保護者として少しは役に立てそうだな」


 というわけで、そのまま四人で中へ。


 更衣室でメイと一緒に買ったあの水着に着替えた後、プールへ向かった。入場料も意外と安めだったのであまり期待はしていなかったのだが──


「おお、こんなすごいプール施設出来てたのか。まったく知らんかった……!」


 広々とした本格的な室内プールに驚く俺。

 大きな窓からは明るい光がたくさん入り込んで水面を輝かせ、子供の声が響く方向には巨大ウォータースライダーや小さめだがしっかりした飛び込み台が設置されている。他にも流れるプールやら子供用のプールやら、ちょっとしたジャグジーに、水着のまま軽食がいただけるカフェまである。

 なんでも夜はムードたっぷりな大人向けのナイトプールに変貌するらしいが、昼は子供も多いし健全な印象があった。


「──おにーさーん!」


 聞こえた声に振り返ると、メイがぶんぶん手を振りながら駆けつけてくる。後ろには桜森さんと善知鳥さんの姿もあった。

 当然ながら、全員水着姿だ。


「おまたせっ! どうどう? お店でも見たけどさ、実際にプールで見るとまた違うっしょ?」


 そう言ってくるっと回って見せるメイ。ポーズを決めた際に揺れた胸元へつい視線が向きかけた。

 あのとき一番最初に試着をした白いビキニはやはりよく似合っていて、メイの言うとおりこの場で見るとまた違う迫力みたいなものがあり、息を呑んでしまうくらいだ。実際、メイが来た瞬間に周囲から(主に男性客の)視線が集まったことがよくわかる。

 ただそれも当然というか、メイって見れば見るほどモデル並みの美人だしな……。


「──あれ? 反応うすくなーい? むー。それともおにーさん、やっぱ金ビキニのほうがよかったとか~?」

「あ、いやそんなことないって。やっぱ似合ってるなと思ったよ。それ選んで正解だったな」

「えへへありがとっ! じゃ見惚れてたってコトね? それなら胸見てたのも仕方ないね~許したげる♪」

「なっバレて……!? あっいや違うんだっ!」

「ハイハイ素直でいいよ男の子~♪ じゃ、次は二人も見てあげてっ!」

「え? あ、朝比奈さん?」「わぁっ!? メ、メイちゃんっ?」


 メイは二人の後ろに回り込み、ぐいぐいと二人の背中を押す。

 俺の目の前で、桜森さんと善知鳥さんが慌てた様子でおたおたし始めた。


「あ、あのっ。まさか湊お兄様にこのような姿を見ていただくことになるとは思わず、その、た、大変恥ずかしいところでして」

「わ、わ、わたしもっ! うう、もうちょっと大人っぽい水着にしておけばよかったかもって、へ、変じゃないですか?」


 二人ともそわそわと落ち着かない様子ながら、俺の反応を気にしているようだった。


 桜森さんの水着は、落ち着きがある黒いワンピースタイプの物。シンプルながら桜森さんが着ると大人っぽい高級感があるというか、清楚な雰囲気がよく合っていると思った。


 善知鳥さんの水着は、大きめのフリルが着いた可愛らしいタイプだ。淡いピンクの色合いもガーリーな感じで、こちらも善知鳥さんらしい魅力が出ていると思う。


「ほらほらおにーさんっ、心の中でエロい感想つぶやいてないでちゃんと言ったげてっ! そっちのが二人とも喜ぶよっ」

「え? あ、そ、そうか! ──ってエロい感想はつぶやいてねぇよ! 人の頭を勝手に覗いてねつ造するな!」


 ケラケラと笑うメイ。一方の二人はさらに照れたように赤くなってしまった。メイのせいだからなコレ!


「えっと、二人とも全然変じゃないよ! むしろ二人ともそれぞれすごく似合ってるなって思いました! 星三つです! あ、三つが最高って意味で!」


 慌ててそう答えると、メイも桜森さんも善知鳥さんも一瞬キョトンとした後──


「──ぷっ! おにーさんナニソレ! ミシュランじゃないんだからさ~!」


 メイのツッコミで桜森さんと善知鳥さんが堪えきれない感じで笑い出し、ちょっと恥ずかしくなってしまう俺。表現方法間違えたわっ!

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