第27話 海底の異界迷宮へ
三団体による合同作戦会議の翌朝。多くの漁猟団員や海賊たち、そして、ギルドの仲間らが見守るなか、エルスたちは港町カルビヨンの
「すげェ……。本当に一日で完成させちまッたのか……!」
「ランベルトスからも、応援を
「なんだか、かわいいね。丸くて。トゲトゲしてて」
アリサの言うとおり、貨物船の
「だろ? だから、あたしは〝ハリセンボン号〟って名前にしようって言ったんだけどさ。オーウェルさんが『どうしてもノーティラス号で』ってね」
「やっぱ、潜水艇なら〝それ〟かなって! ここはオーナー特権ってことで!」
オーウェルが
「そうだ、エルス。借りてた〝観測者のレンズ〟を返しとくよ」
「おッ、もういいのか?――ッて、なんだこりゃ?」
ドミナから差し出されたアイテムは、おおむね平らな形状をした
「悪いんだけど、
「いやぁ、別にいいけどさ。俺、
「機能は最低限に
エルスは言われるがまま〝
「うんうん、バッチリみたいさね。んじゃ、そろそろ出発といこうか」
「ああ……。いよいよって感じだな。オーウェルさん、行ってくるぜ」
「よしきた! それじゃ、フェルナンド船長。彼らをよろしく頼むよ!」
オーウェルからの指令を受け、船長フェルナンドと漁猟団員らが、思い思いの敬礼を返す。続いて、エルスたちも貨物船へと乗船し、出航の準備が整えられた。
*
「それでは、行きやしょうか。所定のポイントまでは、あっしらがお連れしやす」
「ノーティラスには最低限の機能しか無いからね。本当に〝ただ
「オレたちは船上で待機し、万が一の対応にあたる。ノーティラスの操船はドミナたちがやるが――。エルス、アリサ、ミーファ、ティアナ。気をつけて行けよ?」
事前の話し合いの結果、
「
「ふっ。オレの
「うん!
いつになく上機嫌なティアナが独特なポーズを決め、全身を
「そうだなッ! よしッ、頑張ろうぜ! みんなッ!」
「ホホホ、あまり
ヴィルジナからの指示のもと、エルスたちを乗せた貨物船は〝霧〟に包まれた海を進み、やがて、大きな〝
あらかじめ周囲の
「すごい
「うむ。この渦の底に、
「ああ。絶対に〝オディリスの
目的の
そして、
その中には、エルスたちと行動を共にした漁猟団員・ドルガドの姿もあった。自身の元へと駆け寄ってきたエルスに気づき、ドルガドは水色の瞳で彼を見上げる。
「ドルガドさん! ありがとな。巻き込んじまって、
「ああ。……いや、これは俺自身のためでもある。こちらこそ礼を言う」
ドルガドは深々とエルスに頭を下げ、顔を伏せながらノーティラスの後方へとまわる。そんな彼に続き、他の乗組員らも移動をしはじめた。
「おっと、エルス。あたしらは、
「ん? そうなのか?」
「ああ。詳しい説明は
ドミナに
操縦席にはドミナとザグドが着き、後方の座席にはエルス、アリサ、ティアナが着席する。さらに、ミーファがエルスと向かい合う形で、彼の
「ふっふー! まさに特等席なのだー!」
「なんで、抱きつくんだよ……。狭いッてのもあるけど、なんか息苦しいな……」
「ここは空気圧が調整されてるからね。海に潜るにゃ、こういった処置が必要なのさ。ああ、そこらの機械や計器には触らないよう、気をつけとくれ」
潜航にあたり、ドミナはエルスたちに、ひと通りの
さらに、彼女は携帯バッグから二丁の〝
「あれっ? それって、ニセルさんの?」
「ああ、借りてきた。どうしても、こいつの〝本当の力〟が必要でね」
続いて、ドミナが二枚の〝紫色の石版〟を出し、〝
「いけそうだね。――よし、最終確認だ! 総員、準備はいいかい!?」
「へい、艦長。機関室、問題ありません」
「魔導器管制室、異常なし」
ドミナの声に反応し、雑音混じりの音声が次々と船内に響きわたる。その中には、さきほどのドルガドの声だと判別できるものも含まれている。
「これも、ザグドが使ってた〝マイク〟ってやつなのか?」
「ああ、そうさ。――ニセルくん、外の状況は?」
「すでに海上だ。いま着水させる」
貨物船とも会話が成立できるのか、今度は聞き慣れたニセルの声が響く。その直後、ノーティラス号を軽い
「着水確認。ふっ、安定しているようだ。いつでもいいぞ、ドミナ」
「それじゃ、いくよ! バラスト注水! 潜航、開始――!」
ドミナがマイクへ向かって
「うおッ!? 潜ってる……? ンだよな? これ……」
「ああ、問題なく潜航中さね。海ん中を見せてやりたかったんだけども。あいにく、急ごしらえじゃ、水圧に耐えられる窓を準備できなくてね」
「シシッ! 外の様子は、このとおり。観測者の
そう言ったザグドが目の前にある計器を指さすも、
「おー! さすがはドミナ、あらゆる技術が折り込み済みなのだ!」
「ああ、なにがなんだかサッパリだけど、ものすげェってことはわかるぜ!」
「お褒めにあずかり光栄です。ミーファさま。……まっ。あたしらは、戦えないからね。こういう時くらいは、役に立たせてもらうよ。見直したかい?」
声を弾ませるドミナの後頭部に向かい、エルスが力いっぱいに
「そろそろ到着ですのぜ。……シシッ! 海底には、魔海獣らしき反応が確認できますが。排除しておきますかい?」
「
「かしこまったのぜ」
ザグドが
「だッ、大丈夫そうか……?」
「しーっ。エルス、静かにしよ?」
「ははっ、あんたたちは力を抜いとくれ。……さあ、もう着くよ」
死者の〝霧〟と海水とに
その後、しばらくの間――。小刻みな振動と緊張感がノーティラス号を包み込み、船内には各種の制御機器が発する、信号音だけが流れていた。
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