第42話 コミュニケーションゼロ助

「あの……タクト様?」


 レイラとの件が一段落? ついた後、カウンター越しに口を噤んでいたククラが、沈黙を破る。


「あぁ? なんだ……?」


 得も言われぬ疲労に襲われたオレは、冷めてはいないものの、少々対応が乱雑なものに。起きたばっかだというのに、また横になりたくなってきた。


「結局、そちらの方はそのぉ……くだんの探し人ではない……ということなのでしょうか?」


 すると、横のさらに横……レイラの方から「探し人?」なる言葉が耳に届く。せっかくだ。情報を得るためにも、コミュニケーションとやらに興じてやろう。


「ああ。実はこの赤髪の女を探しててな。闘技場に参加したのは、それらしい女がいるという情報を得たからだ。が、ククラが言うように当ては外れてしまったがな」


 と、前回と同じようにスマホの画像を提示するも、反応はまるで……


「誰よ……この子?」


 違うものに。


 意図していないものとはいえ、多少なりとも和らいでいたその目元。しかし、画像を見せるや否や、その瞳は嘗ての威光を取り戻してしまう。……三割増しで。


「名は月岡星羅つきおかせいら。オレの幼馴染だ。絶賛、行方を晦まし中でね。探してるんだが、何か心当たりは?」

「私と同じ赤髪……いえ、そこまで濃くはないかしら。でも……そう。じゃあ、私を助けたのも……?」

「事のついでだ」


 ありのままを話すのは悪手……そろそろそう学ぶべきなのかもしれないな。渡サブロウが『おいおい……』って感じで、こっちを見てたしな。


「……失礼するわ。さよなら」


 というわけで、またも席を立ったレイラは、その面持ちを『無』……いや、『怒』にしてこの酒場からの撤収作業へと移る。


「違ぁーうっ! 強がってるだけ! 強がってるだけだから! 一旦、落ち着いて⁉ ね⁉」


 となれば、最後の砦たるわたりサブロウが動くのもまた必定。こっちはそんなの望んじゃいないんだがな。


「……まあ、どんな理由であろうと、あなたがいなかったら、今の私もないでしょうし? 助けてもらった恩だけは、ちゃんと返すわ。でも、返したらそれっきりよ? あなたみたいな女ったらし……!」


 目元は和らいでいないし、そっぽを向かれたものの、取りあえず席には戻っていった。……まあ、あくまでも一つ離れた初期位置という意味でだけど。


「何か勘違いしているようだから言っておくが、こいつはただの幼馴染で、オレも女ったらしなどではない。お前みたいに脳内お花畑にして遊んでる暇は、こっちにはないんだが?」

「なんですって⁉」


 叩かれたカウンターが揺れると、席を立ったレイラはその目付きをより鋭くし、こちらへと飛ばしてくる。


「どうしてキミはそうフラグをバキバキに折っていくのさ……。トホホ……」


 さすがの渡サブロウもお手上げなのか、肩をがくんと落とし、涙をちょろり。元はと言えばお前が余計なことを言ったのが原因なんだが、今それはどうでもいい。


「なんでもいい。情報だけ貰えれば、恩を返したとして、自由を約束する。その方がそっちも後腐れなくていいだろう。どうだ?」


 キッと睨むレイラを見遣ること数秒、奴は深呼吸ののち、「何が聞きたいの?」と三度目の着席へ。これでようやく話が進む。グッドコミュニケーション。


「まず星羅についてだ。どこかで見たことは?」

「見てたらいの一番に言うわよ。つまり、知らない。けど……」

「けど?」

「早めに見つけてあげた方がいいかもね。その子」

「どういう意味だ?」

「髪色よ」

「髪色? 赤が……マズいのか?」

「ここまで言って分からないの? 随分な田舎者ね? あなた……」


 そいつは呆れと物珍しげな感情が入り混じった目だった。釈然としないものがあるが、ほぼほぼ事実みたいなものなので、ここはスルー。


「お前が思う数倍は田舎モンだと思って話してくれ。で? 何がマズいんだ?」

「……赤はこの世界じゃ『異端』の証なの。赤い目を持つ『異端者レッドアイ』が、その『異端者』の先駆け。おかげで私も『異端の姫君』なんて言われて、祖国を追われる始末。あなたも聞いたでしょ? 闘技場でさ?」


 そういやそんな風な言われ方をしてたっけ。まさか同じ『赤』だという理由だけで差別紛いなことが巻き起こっているとでも? さすがは別世界。頭が化石で出来てるようだ。


「確かにお前の言う通り、早めに探し出した方が良さそうだな。そういう奴らが集まりそうな場所は?」

「中立国の『セントルドラム』。あそこなら比較的、治安がいいから、逃げ込むのに打って付けでしょうね。実際、私もそのつもりだったし……」


 と、伏し目がちに沈んでいくレイラに釣られ、あたりの空気までもがどこか重たいものに。


 にもかかわらず、オレってやつは……


「……よし。なら早速、その『セントルドラム』ってとこに行ってみるか」

「いや、聞かないんかい⁉ 完全に身の上話する流れだったじゃん⁉ どんだけ興味ないんだよ⁉」


 またも渡サブロウにツッコまれてしまった。


 コミュニケーションの道は、長く……険しい。

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