第31話 バッドダウの英雄

 決してシュヴァイクの覇気にやられたとかそんなんではないが、こちらとて話し合いは大歓迎ゆえ、オレは促されるまま奴の対面へと赴き、腰を下ろした。


「「「「「………………」」」」」


 ……まあ、周りの下っ端どもは話し合おうって空気じゃないけどな。ヘルメットで窺えないが、射るような視線をこの身に感じる。


「うちの若い衆は血の気が多くて敵わねえや。そんでも俺が目ェ光らせてる間は、おめえに危害は加えさせねえ。だから、おめえもそう怖い目ェしなさんな」

「生まれつきだ」

「ほぅ? 生まれつきか! ダッハッハ! そらァ苦労してきたことだろう。その気持ちはよォ~く分かる。俺も似たようなもんだったからな。だからァ……抉られた」


 己が亡き左目を指差し、ギザついた歯をニタリと見せるシュヴァイク。こんなのと似てるだなんて、ただでさえ少ない友人が全員消し飛ぶわ。


「身の上話を聞く気はない。本題に入ってくれ」

「こりゃ、失礼……。わざわざ出向いたのは他でもない。おめえ……うちに入らねえか?」


 射るような視線が、空気が一転、驚愕の二文字へと姿を変える。こいつは一体何を……


「ちょっと待って下さい、お頭っ! こんなガキをうちら『略奪者ラプトル』に入れるって言うんですか⁉」


 無論、オレが言うまでもなく、反対の異を唱えるものが出てくることだろう。その筆頭はもちろん、あのブルーノだった。


「お頭じゃなくて首長だ。こちらさんが怖がるだろう。俺らはもうそこらの盗賊じゃないんだ。衛兵様だぞォ? 間違えんな」

「……っ! 首長。どうしてこんな奴を……⁉」

「どうして? おめえ、おかしなこと言うんだなァ? 他の下っ端ならいざ知らず、『異端者レッドアイ』のおめえがやられてんだぞ? なら、引き入れねえでどうするってんでい? そうやってうちは大きくなってきたんだ。今までだってそうだったろう?」

「しかし――」

「あァ~……? おめえ、自分をやった奴と一緒に居たくねえんだろ? ん? ったく、プライドだけは一丁前になりやがって。なら、おめえが抜けるか? そうなると必然的に『死ぬ』ことになるがァ……?」

「――ッ⁉ そ、それは……」


 狼狽えだすブルーノと、嫌味ったらしく迫るシュヴァイク。さすがトップというだけあって、その差は歴然。


「左腕だけで許されたありがたみをもっと感じてほしいねェ~。他じゃこうは行かねえぞ? ブルーノ


 ちゃっかり降格していたブルーノは、それ以降口を開くことはなかった。……が、今にも噛みついてきそうな視線は継続中。こいつの動向には目を光らせておいた方が良さそうだな。


「それで? おめえの気持ちを聞きたいんだが……どうだ? 俺らとやっていかねえか?」


 シュヴァイクが再びオレを捉えた。まるで道端に咲く花を見つめるように、その目を細めて。


 もちろん答えはNOだが、星羅せいらの件もある。こいつらの運営する『底なし闘技場』の賞品が、もしあいつだとするならば……潜入する価値はある、か。


「もちろんタダとは言わねえ。入ってくれたら、あのお嬢ちゃんやこの酒場への手出しはやめよう。おめえの管轄にする。うちは『他の女に手出し厳禁』って決まりがあるからなァ。それならどうだ?」


 シュヴァイクの提案にオレは一度ククラの方へ振り向く。


「……っ! ぁ……ぅ……」


 逸らしたその横顔には『親の仇』と『身の安全』、二つの感情が入り混じっていた。宿敵の組織とはいえ、あの年で酷い目に遭わされたんだ。無理もない。


「なら、まずは責任を取らせるべきじゃないのか? そこのブルーノ並びに部下の連中は、あの子を寄ってたかって辱めた。交渉するなら、そいつらの首を並べてからだ」


 オレの言葉はブルーノの全てを半歩だけ動かさせたが、シュヴァイクの一睨みにて即鎮火。眼前の首長様は『へっへっへ……』と不敵な笑みを以て口を開く。


「辱めたって言うなら、そこのお嬢ちゃんも同罪じゃないかァ~? ん~?」


 何故かククラの方を見て。


「……っ! ……」


 彼女は一度こちらを見遣るも、目を見開いたのちにまた顔を逸らした。『何かある……』。そう感じ取ったオレは、両者を視界に入れたまま、「どういう意味だ?」とシュヴァイクを睨んだ。


「この町の現状はもう知ってるだろう? 外面だけよくて中はゴミみたいなもんだってこたァ」

「それが?」

が分かれてんのさ。『上』と『下』でなァ? ……で、俺らはその『下』出身だった。毎日、這いつくばりながらも必死に生きたもんだよ。そいつを……『上』の奴らは見て見ぬフリをした。まあ、それだけならまだマシだったが、中には暴力やら女を犯す連中まで現れ始めた。人間の暮らしじゃなかったなァ~、あん時は」


 クララを一瞥すると、気まずそうな横顔が目に入った。どうやら本当のことらしい。話が変わってきたな。


「ここの首長……いや、元首長か。そいつは改善しようとはしなかったのか?」

「するわけないだろォ? 

「理由は?」

「『下』の奴が居ると人間ってのは安心する生き物だろォ? 『上』の奴らを健やかに暮らさせる為、敢えてゴミ溜めを作ったのさ。今、思い返しても理解に苦しむ」


 その話が本当なら、潰されても文句は言えんだろう。ゆえにオレは問うた。「だから……奪った?」と。


「おうよ。俺はそんな『下』にされた奴らを束ね、『略奪者ラプトル』を結成。反旗を翻し、入れ替えてやった。『上』と『下』を丸ごとなァ? つまり、俺はこの町の――英雄なんだぜ?」

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