第17話 プランBが導く運命

 『時間遡行』で過去へ跳んでもダメ。タイムパトロールを利用しようとしてもダメ。星羅せいらを救う手は悉く潰され、未来は閉ざされていく。


 ――もう少し早くそう言ってくれてたら……考え直してたかもしれないね――


 そういや星羅はそんな風なことを言っていたな。なら、また力を貯えて今よりも過去に戻れば……!


 ――残念だけど彼女が別世界へ行くことは――だ。僕らが干渉する理由にはならない――


 ……いや、このわたりサブロウとかいう男の話が本当なら、オレがどれだけ説得に回ろうと、星羅は別世界へと行っちまうらしい。つまり、あれはオレを気遣っての言葉。嘘だったんだ。


 跳ぶ前の世界よりは幾分かマシだが、五月の夜もそれなりの肌寒さを感じさせる。この遣る瀬無い心境がそうさせるのか……。なんにせよ、オレにできることはもう……何もない。


 オレは瞳を閉じ、前を見ることをやめた。再びベンチへと腰かけ、全てを受け入れるように項垂れていく。


 あいつが行きたいというのなら、オレなんぞに止める権利はない。たかが幼馴染だ。それもほぼ疎遠気味だった……


 慣れないことをして疲れたな。だが、気持ちを切り替えなければならない。ここから半年後まで身を隠さなきゃならないんだ。まずは寝床の確保から――



「諦めるのかい?」



 そんな燻りつつあったオレを、夜風に乗った一声が掬い上げた。眼前に佇むは変わらず、渡サブロウとかいうタイムパトロール。こいつは何を言って……?


「キミにはまだできることがあるんじゃなかったかな?」


 続くその言葉に、頭の片隅に追いやっていたが息を吹き返す。そう。あまりにも無謀だと、ほぼ忘れかけていた――


「プランB……か?」


 途切れかけていたその言葉、意志は、そんな体たらくでも届いていたのだろう。眼前の男をゆっくり頷かせる。


 プランB――。 『世界自体のチャンネルを変える』という、離れ業と言う他ない荒業中の荒業。星羅と同じように、オレ自身を別の世界へと変換、移動させる、もはやあってないような策だ。


 しかし、あの策には条件が多すぎる。そもそもできるかどうかも定かではない。そんな策を本当に……? だが、止められないのが確定事項なら、もう追いかける以外、方法は……いや、ちょっと待て――!


「……なんであんたがそのことを知っている? まさか……?」


 渡サブロウは、ただ感情の読めぬ面持ちで見下ろすだけだった。……かと思いきや、


「僕は人の抗う姿が好きでね。今まで色んな者の生き様をこの目で見てきた。だからこそ……黙っていられなかったのかも?」


 零れ落ちてくる。砂漠のド真ん中で見つけたオアシスが如く、活力、生き様の源が。


「まだチャンスはあるってことか……」

「そうだね。お節介かどうかはやってから決めればいい。大事なのは気持ちハートさ。気持ちハート


 気持ちハートねぇ……。そんなもんがオレの中にあるのかは甚だ疑問ではあるが、お節介かどうかについては一理ある。やると決めたらやるんだ。その方が『熱』も入るし、何より滾る。しかし……


「あんたの立ち位置が見えないな? 取り締まりたいのか、それとも後押ししたいのか、どっちなんだ?」

「それはキミの領分じゃないね。今は僕のことなんかよりも、これからのことを考えた方がいいんじゃないかな?」

「まあ……それもそうだな。つっても、どこから手を付けたものか……」


 どうやらオレの夜はまだ続くらしい。そう覚悟し、思考の海へダイブしようとしたその時――


「キミはもう既にその鍵を手にしているはずだよ」


 再び齎される意味深な言葉。聞かずにはいられなかったオレは、「どういう意味だ?」と、ストレートな気持ちをぶつける。


「いや、正確にはまだ出会ってないかな。これから出会う。でも、キミ自身はもう既に出会っていたり? さて、これな~んだ?」

「……なぞなぞか?」

「なぞなぞかもね。なんにせよ、キミは『運』がいいよ。その『運』をものにすることができれば……もしかしたら道が開けるかもね」


 言うだけ言うと渡サブロウは、踵を返し、闇夜の中へと消えていった。


 オレ自身はもう既に出会っているが、正確にはまだ出会っていない。要はこの時間軸で、これから出会う奴ということ……になるのか?


 しばらく頭を捏ね繰り回してみるも、思いつく奴なんて。となると、休んでる暇は……なさそうだな。



 翌日――


 起きれるかという心配も杞憂に終わり、オレは目覚めて早々、朝っぱらから街へと繰り出した。


 目的は当然……


「ちょっとぉ……! いい加減にしてよ! アンタらに構ってる暇なんて、アタシたちには……!」

「君たち悠志校の生徒でしょ? 『七不思議』関連で休みになってるって聞いてたから、もしやと思って来てみたけど……。やっぱ街に出てきてたなぁ? 暇してんなら、一緒に遊ぼうよ?」


 絡まれている火口ひぐちたち……ではなく、オレと同じ『超常の者』――JOYジョイと呼ばれる男だ。

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