第15話 交差する想い
『冥界送り』――。『その扉を開けし者、冥界へと誘わん』という言葉の通り、その力は別世界へと通ずる扉を召喚するようで、
ただ、扉というにはあまりにもかけ離れている。見た目は完全に『ワームホール』と言っていい。黒く渦巻く『何か』がそこにはあった。
「本当に行くつもりなのか? 星羅」
今さら手遅れ感が否めないが、オレは説得を最後のステージへと移す。これで無理ならもう……
「うん。新しい場所で何もかもやり直したい。自分は生きてていいんだと思える居場所を見つけたい。それが今の……私の正直な気持ち」
しかし、やはりと言うべきか、星羅の気持ちが変わることはなかった。吹っ切れていた。その表情も、何もかも。
こうと決めたら変わらない。そういう奴だったな、こいつは。自分の意思ってやつがしっかりとある。こうなってはいくら語りかけても聞く耳持たないだろう。……仕方ない。なら、もうこうするしか――!
「だったら……オレも連れて行ってくれ。その旅に」
否定が無理なら肯定あるのみ。オレの言葉は確かに、見開いた星羅の目にしっかりと届いていた。
いくら『力』があると言っても、一人は誰だって怖いはず。それが別世界となれば尚更だろう。だが、一緒に旅する相手が居れば、その不安も和らぐというもの。例えその相手がこの『冷め冷め男』だったとしても、居ないよりはマシなはず。そう思いたい。これならこいつも、そう無下には……
「気持ちは嬉しいけど……カズくんにはちゃんとした『家族』が居るじゃない? ご両親が寂しがるわ」
しかし、その視線は……かけた梯子はすぐに外されてしまった。『家族』というワードに存分に含みを持たせて。
「お前だって一人じゃ寂しいだろ?」
「初めはみんな寂しいものだわ。それを乗り越えて人は大人になっていくの」
「別世界なんてものがもし存在するんだとしたら、それこそゼロどころかマイナスからのスタートになる。今までの知識だって通用しないかもしれない。なら……二人で分かち合った方がまだマシだろうが?」
「……やっぱり優しいね。カズくんは。昔から何も変わってない。もう少し早くそう言ってくれてたら……考え直してたかもしれないね」
星羅は口元に笑みを浮かべてみせるも、その花は一夜すら持たず、ただ儚く散っていく。痛みを孕んだその面持ちに、オレは「遅かったってことか……」と、自身の無力さを嘆くことしかできなかった。
「カズくんが悪いって言ってるんじゃないよ? これは全部、私の問題だから……。ただ、そんな自分勝手な考えに、カズくんを巻き込みたくないだけ」
「そんなこと……お前が気にする必要はない。どうせこんな時でしか役に立たないんだ。上手く利用してくれって、そう言ってるだけなんだよ。オレは」
「気持ちだけ貰っておくね。ありがとう、カズくん。それじゃ……」
星羅はまた寂しげに微笑むと、その身を黒く渦巻く『扉』の方へ。
もう形振り構ってはいられない。止まらないのなら無理やりにでも……!
走り出すが早いか向こうの対応が早いか。答えはすぐに導き出されることになる。黒き渦がもう一つオレの足元に生み出されると、その身は落とし穴にはまったかの如く下へ下へ。
そうさ。ここまで来たってのに、結局オレは――
「ごめんね……」
またそんな顔を……あいつにさせちまったんだ。
◆
落ちて落ちて落とされて、どれほど経っただろうか? いや、たぶん一瞬だった。ただ、そのように感じただけ。何故なら――
「――ッ⁉ うあッ!」
落ちた先は校舎の外……校庭だったから。
「……ッ! ここ、は……⁉」
一瞬、『別世界に飛ばされたか?』と勘ぐっちまったが、星羅の奴がそんなことするはずがないと思い直す。それにこの冷たい砂の感触、空気感、そして匂い……。間違いなくオレが居た世界そのものだった。
とはいえ、確証がないのも事実。似てるようで実は違う……なんて可能性もあるかもしれないと、オレはもう一度、校舎内へ戻ることにした。
もちろん図書室には、いの一番に向かった。だが、そこには星羅どころか火口たちの姿さえ見当たらない。気が付いてあいつらも探し始めたのか、それとも……
それからどれくらい探し回った後だったか。突如、廊下内に悲鳴が響き渡る。一発で分かった。それが火口たちによるものだと。その先には『誘い老婆』が居て、当然もう一人のオレも……
その後は言うまでもなく、あの時と同じ流れ。警察呼んで、夜中まで事情聴取を受けて、一週間の休み。世界は何一つ……変わっちゃいない。
◆
某公園――
「ハァ……」
項垂れ、そして溜息をつきながらベンチへと腰を下ろすオレ。
結局、オレはあいつに何もしてやれなかった。けど、よくよく冷静になって考えてみると、こうなることは最初から決まっていたのかもしれない。……とも思い始める。
なんせこの世界には今、オレが二人いるんだ。じゃあ、どうやってこの世界はこの後、この状況に折り合いをつける? 簡単な話だ。この時間軸に存在しているオレが過去に飛べば、
つまり、オレが失敗することは先程も述べたように、『最初から決まっていた』ことなのだ。どれだけ時を越えようが、何をしようが、オレがヒーローになることは……ない。
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