第2話 闇への手招き

 オレはガキの頃から『大人っぽい』と言われることが多かった。それは偏にオレが筋金入りの『冷め冷め人間』だったことに由来する。


 別に何かあったから、そうなったわけではない。初めっからそうだった。性格も、双眸も、この涼し気な顔立ちでさえ、どこか冷めたようなものに見えてしまう。でも、それがオレという人間だった。


 それを興味本位で近づく者たちがいた。ただ、中身が『冷め冷め人間』だからな。ほとんどのもんは詰まんなそうな顔して、気付いたら周りには誰も居なかった。


 だからかな……。身だしなみの方も徐々に、生き方に合わせにいっていた。節制し、適度な運動でスタイルを維持。髪型も青みがかった長めのマッシュショートにし、持ち前の双眸で威圧的な雰囲気を演出。周りを……寄せ付けないようにした。


 お陰で高校に入ってからというもの、業務連絡以外で話したことはほとんどない。まあ、どうせ来たところで離れていくだけ。なら、最初っからそんなもん、ないのと同じ。必要ない。


 しかし、そんなオレでも唯一熱を発したことが何度かある。その一つが小学校二年かそこらくらいの時だったか。道路の真ん中に弱り切って蹲ってた猫が居てな。そいつが車に轢かれそうになったところを助けてやったことがあった。


 そん時ばかりは自分の中で何かが弾けた感覚があった。体が自然と動いた。『熱』を……発した。


 それを……


「うぉぉおっ! すっげえ! ミリオン・マスターの『エシュロン・リフォーマット』みたいだ!」


 目を輝かせた当時の八納鷹志やのうたかしに見られちまった。


 それが奴との友情の始まり。事あるごとについてきては、『どうやってやんだよ⁉』だの、『もう一回見せてくれよ!』だの、今でも思い出すくらいメチャクチャに詰め寄られたものさ。


 そんな壁をものともしない鷹志の甲斐あってか、オレは初めて親友ってのを得ることとなった。まあ、それ以外の関係はからっきしで、結局……星羅せいらとも徐々に疎遠気味になっちまうんだけどな。


 要は何が言いたいかというと、ということだ。高校に入ろうがなんだろうが、『冷め冷め人間』なのは相変わらず。この辛気臭い心が揺れ動く予定は、いくらカレンダーをめくろうとも、きっと……白紙のままだ。


 そんな自分に辟易しつつ、GW明けの学校という結構な任務を成し遂げたオレは、どこに寄るでもなく帰宅。いつも通りダラダラと、無味乾燥な学校生活が再開するまで、暇を潰していた。


 だが、オレは気付かなかった。今まで築き上げてきた『日常』という外壁が、もう既に崩れ始めていることに。


匠十たくと……お前、星羅ちゃんと同じクラスだったよな? 遊びに行ったっきり、まだ帰ってきてないらしいんだけど、何か聞いてないか?」


 その一手目がこれだった。


 時刻は二十一時を回ったところ。スーツ姿である我が父親、数原幹雄かずはらみきおが珍しく眼鏡をずらしたまま、部屋に入ってきたシーンから物語は再開する。


「星羅が……? いや、何も……」


 本当は知っている。けど、オレは言わなかった。『七不思議狩り』の噂は結構な勢いで広がってる。となると、親連中が知ってても不思議じゃない。親父の話し方から察するに、恐らく星羅は親御さんにどこへ行くか、伝えていないのだろう。言ったってどうせ止められるだけだしな。なら、オレが言うわけには……


「そうか……。なんか思い出したら言ってくれ。向こうの親御さんも心配してるからさ」


 その会話を最後に閉められたドア越しには、階段を降りていく足音、そして玄関の戸を開ける音が耳に届く。

 二階の窓から外を覗くと、星羅んとこの両親とこっちの両親が話している姿が見えた。向こうの母親は……泣いていた。


 その光景を見た瞬間、オレは一も二もなく身支度をし、部屋を飛び出していた。だって仕方ないだろう? 身体が勝手に動いちまってたんだから。


「おい、匠十⁉ どこ行くんだ⁉」

「ちょっと探してくる! あいつが行きそうな場所、片っ端からあたってみるわ!」


 玄関を出て早々、親父に捕まりそうになるが、オレはその手を華麗に振り切り、闇夜の中へと消えていく。


 目指す場所はもちろんオレたちの学び舎――『悠志高等学校ゆうしこうとうがっこう』だ。



 電車を待ってる暇はないので、オレはタクシーに……と言いたいところだが、こういったご時世だ。『こんな夜中に学校に』って時点で、断られることは明白。仕方ないので電車にて向こうことに。


 着いたのは結局、二十二時前。電気すらついてないこの時間帯の学校は、もうただの黒い塊だな。っていうか……


「どうやって入ればいいんだ……?」


 門扉を飛び越えたはいいものの、その問題が頭からすっかり抜けてた。星羅たちはどうやって……?


 取りあえず一階の窓を総当たりしてみるも、どれもこれも不発続き。


 そもそも職員室の明かりすらついてないってことは、先生たちも帰ったってことだよな? すると、戸締りの最終確認も当然の如くなされてるはず。警報機も完備してあることを考えると、こっからの侵入は絶望的であろう。


「って、警報機があんだから、うろついてたら普通にバレるか……」


 発していた熱が一気に冷めるのを感知。急に馬鹿らしくなったオレは、自分自身を笑ってやることで、その強張っていた頬の拘束を解いた。


 そうさ。あいつらだってきっと、もう帰って……



 ガラガラガラ……



 と、踵を返そうとしたその時、視界の隅からが耳に届いてしまう。


 その音の出どころへと焦点を合わせると、あら不思議……開いているじゃないか。



 まるで手招きでもしてるかのように……窓がさ?

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