第13話 時を手にした少年

 力を貯え、そして強化し続けてきた甲斐もあり、準備が整ったのは半年後。十一月のことである。


 察っするに至れたのは毎日の積み重ねがあったからだと自負している。『今ならどうだ? 今日なら……』。そんな日々を過ごせど、最初はうんともすんともいかなかった。が、先日……遂に『力』を感じた。『今ならできるぞ』という波動をな。


 とはいえ、オレが変換できるのは零~十三の間である。それ自体は何も変わってない。ゆえに少々待つ必要があった。あの星羅せいらが消えてからちょうど――『六か月』の瞬間を。


 本日は土曜日。学校もない。……にもかかわらず、オレは制服を着用していた。革靴も履いている。これから跳ぶとなれば向こうは平日。学校に潜り込むことを考えれば、準備しすぎて悪いってことにはならないだろう。


「ふぅ……」


 自室で一人、気を整えるオレ。両親は朝から外出中だ。障壁となるものは……何もない。


 しかし、いざその日を迎えると、それなりに緊張するものである。でも、悪い緊張じゃない。久しく感じてない、ポテンシャルを発揮できる程よい緊張だ。


 オレは腰掛けていたベッドから立ち、そして瞳に『力』を込め始めた。感じる……時をその手中に収めるほどの強大な力をッ!


 部屋が……いや、家全体が震えた。オレを中心に『力』が渦巻き、机の上に置かれていたプリント類が宙を舞う。


 紫色の瞳が見据える先は、もちろん――半年前のあの日、GW明けの朝。


 正直、どのような結果になるか、オレ自身も判断がつかない。だが、どのような結果になってもオレはやる。


 その先に星羅あいつがいるのなら――



 ――――――――――――


 ――――――


 ――


「……どう……なった……?」


 紫色の渦に抱かれ、光を越えた先でオレは、ゆっくりと目を開ける。


「オレの……部屋か……」


 見渡せばそこは、先程と何一つ変わらない自室が存在していた。

 しかし、これだけでは過去に来れたのかが判別できない。カレンダー一つない自分の部屋を忌々しく思ったのは生まれて初めてだ。


 ……が、そこで視界に入るは机に置かれた携帯救世主。画面をひとたび見るだけで、世界の全てが分かる文明の利器だ。


 先程とは別の種類の緊張を前に、ドッと疲れが押し寄せてくる。……だが、休んでいる暇はない。オレは恐る恐る携帯を取り、画面を覗き込む。


 ここからが正念場だ。せめて第一関門くらいはッ――



『五月七日、水曜日。6:54』



 ……どうやら上手くいったらしい。携帯がぶっ壊れているとかでなければの話だが。


「とはいえ、確証は欲しいところ。この時間帯ならそろそろ……」


 ダッダッダ……


 木の軋む音に交じって、階段を叩く足音が耳に届く。オレはすぐにその身をベッドの下に潜り込ませた。


『ハァ……今日からまた学校か……』


 ドアがひらいたと同時に、オレはなんとも不思議な感覚に包まれた。自分の声が、オレが……


 これで確定したな。オレは間違いなく『時間遡行』に成功したのだと。だが、オレ自身が未来のオレと鉢合わせした記憶がない以上、おいそれと邂逅するわけにもいかない。


 来て早々あれだが……こりゃあ、夜まで身を潜めるしかなさそうだな。



 『悠志高等学校ゆうしこうとうがっこう』、校内――


 時刻は二十時五十七分。あれから隙を見つけ、家から抜け出したオレは、外で時間を潰すと、日が明るいうちに学校へと潜り込んだ。


 話しによればそろそろ星羅が『七不思議狩り』を終える頃。本来ならその前に止められたらよかったのだが……オレの予想が正しければ、


 幸い思い返す時間は十二分にあったからな。そしてその予想は寸分違わぬ形で、オレの目に映し出されることになる。


「え……? マジで攻略できたの、星羅? あの『七不思議』を?」

「うん。たぶんだけどね。なんだか不思議な……『力』を感じるし」

「凄いよ、星羅! ボク、もう諦めかけてたよ……」


 場所は図書室。入口の扉から覗き込むと、火口ひぐち星羅せいら、そして水戸みとの三人が、安堵した様子で笑みを交わしている姿が窺えた。


 この後、水戸の話によれば、あの二人はことになるらしい。さて、なんでだろうね? ちょいと様子を見てみようか。


「ねえねえ? 使ってみせてよ、星羅!」

「え? う、うん……」

「わあ……! 目の色が紫になってる! 綺麗……!」


 いや、もう限界だな。正解は――


「――ッ⁉ あ、れぇ……?」

「――ッ⁉ 急に……目の前、が……」


 オレの『変換能力』で意識をゼロにした。……でした。


あかね……? あおい……?」


 倒れた二人を星羅は、特段慌てた様子もなく見下ろしている。こういうところはオレに似て、なんというか……肝が据わった奴である。


 兎にも角にもこれで水戸の言っていた通りの流れになった。あいつらとここで出会うと色々と辻褄が合わなくなるし、恐らくこれでいいはず。よし……


 満を持してオレは図書室へと足を踏み入れていく。闇夜が包み込む中、一歩ずつ……あいつの下へ。


「……誰?」


 星羅もこちらの気配に気付いたのか、その紫色の目をこちらに向ける。


 どう答えたものか? 考える暇はなかったので、一番手っ取り早い方法を用い、オレは答えとする。


「……カズくん? どうしてここに? それにその『目』……」


 月夜が照らす室内に、紫色の瞳を添えて。

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