第4話
家に入ると、傷と顎と歯と歯茎と耳が痛かった。その痛みはてんでんバラバラなようでもあり、僕をけっして休ませないように結託しているようでもあった。
蛍光灯の紐を引っ張ってテレビをつけたが、ニュースと相撲しかやっていなかった。晩御飯はまだだろうか? そう思ったとき、僕は、いまさらのように十姉妹のかごの中が気にかかった。
中には羽根が散乱し、底に敷いてある新聞紙は水でふやけていて、その上には糞と、粟や稗の混じった鳥の餌がべったりと張り付いていた。残っていた一羽はオスだった。逃げたのはメスだ。「これじゃ、黒川さんから分けてもらうわけにはいかないんだな」と、僕は口に出して言ってみようとした。だが、顎がうまく動かなかった。大きなガーゼをテープでベタベタ止めてあるせいばかりではないようだった。口を開けると耳の付け根がズキリと痛んだ。僕はそっと顎をさすった。薄闇の玄関口には鏡があったが、僕はそれを見る気にはなれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます