第3話 ペロと散歩
学校から帰ると、僕はペロと散歩する。まるでオレンジジュースの中にいるみたいな夕暮れの町。なめたら甘いならいいけれど、別に味はしないんだ。ちょっとつまらない。
ペロっていうのは僕の犬。僕の弟。僕には七歳年上の兄さんと五歳年上の姉さんがいる。どっちも高校生。二人とも学校や部活で忙しいから昔みたいに遊べなくなった。僕は一人でゲームする。兄さんと姉さんはスマホがあっていいな。僕はまだキッズスマホなんだ。
ペロの散歩は僕の仕事。僕はペロの兄さんだから、面倒を見るんだよ。家を出て、川の見える堤防に出て、住宅街と公園を通って帰るんだ。ペロは白い犬。黒くて丸くてつやつやした目がとても優しい。頭やあごをなでるとすごく喜ぶ。ご飯は夢中になって食べるんだ。寝る時はリビングの隣の和室で僕と一緒に寝る。
ころころちょろちょろ、どうどう、川からは色んな音がする。一本の太い帯になってどこかへ流れていく。夕日の光は始まりも終わりもない大きな布みたいにどこまでも広がっている。でも、川の水にぶつかると割れたガラスみたいに細かくなって、波の上にきらきらと転がる。ペロの毛の先にも夕日の子供みたいな小さな光が光ってる。
ペロと一緒に散歩してるとよく人に話し掛けられる。たいてい、僕のおばあちゃんと同じくらいの年の人。そして、犬を散歩させてる人。
「かわいいわんちゃんねぇ」
「いつも散歩してあげてえらいわね」
そんなことを言われる。僕はなんて言ったらいいか分からなくてただ笑ってる。
たまに車椅子に乗ったおばあさんを散歩させてる人とすれ違うこともある。やっぱりペロのことをかわいい、散歩してあげてえらいねと僕たちをほめてくれる。
堤防を下りて住宅街に入る。この住宅街の中にある公園は小さい頃よく遊んだ場所。登校班の集合場所だから今でも毎朝行くよ。ブランコやすべり台はさすがにもうやらない。でも、本当はやりたくなることもある。誰かに見られると恥ずかしいからやらないんだ。
ペロ、そろそろ家に着くよ。もっと散歩したそうな顔してる。外はまだ明るいもんね。前はすぐ暗くなっちゃったのに。僕、夕日を見てたらオレンジジュース飲みたくなっちゃった。宿題もやらなきゃいけない。今日は漢字と計算。一番めんどくさい宿題だ。保育園のころは勉強なんてしなくてよかったのに。たまに小さいころに戻りたいなって思うよ。
ほら、ペロ、散歩はもうおしまい。また明日連れて行ってあげるから。
玄関を開けてただいまって言う。ああ、のどがかわいたなぁ。
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