第7話


 心の底から絶望した時、ほんの一筋の光が太陽よりも明るく見える。


 死を待つばかりだった私を連れて逃げ出してくれたサリーは私にとって沈まない太陽だった。


 しかし太陽にも絶望はある。


 私を連れて逃げ出したサリーには行く当てもなく日に日に憔悴していった。


 私はまるで母に頼る赤子の様にサリーに寄りかかって。 


 太陽が影っていく様を見ていることしかできないのは、身を切られる事よりも辛かった。


 そんな私達に手を伸ばしてくれた人がいた。


「暫くはここに隠れてな。なに、あたしは大丈夫だよ」


 そう言って私達を匿ってくれた年嵩の女性。


 数日間対価も求めず寝床と食事を与えてくれた。


 私と私の太陽を救ってくれた。


 手を差し伸べてくれた。

 

 あの時の気持ちを、恩を私は決して忘れないわ。


 だからこうしてここへとやって来た。

 

「お姫様が、こんなところに何の用ですか?」

 

 目の前の少女、歳の頃は十かそこらに見える。


「貴女を助けに来たのよ」


 私がそう言うと少女は小さく首を傾げた。

 粗野な男共と違って幼い少女はとても可愛らしいわね。

 まぁ、今の私とはあまり歳の差も無いのだけれど。

  

「助けに?」


「そうよ。貴女の病気を治してあげるわ」


「病気を?」


 私の言葉に首を傾げる少女は、状況をあまり理解できていないよう。


 けれどそれで構わない。


 もはや消えてしまった未来の事など誰に理解されるはずもなく、そして理解されなかったとしても、私が成すべき事に変わりなどないのだから。


「えぇ、けれど今日治せるかはわらないわ。私、貴女の病気の原因すらわからないもの」


 この娘については今日は様子を見に来ただけ。


 未来で私が訪れた時には既に亡くなっていたから、今の状態を見ておかなければならなかった。


 少し見ただけなのだけれど、思っていたよりも元気があるわ。


 これなら十分に治癒できる範囲のはず。


「わからないのに治せるんですか?」


「まぁ、それくらいの力はあるつもりよ」


「お姫様ってすごいんですね」


 素直に笑う少女はとても儚げに見える。


 けれど必ず助けるわ。


 だってそれがあの人に私ができる最大の恩返しなのだから。


「とりあえず今日は顔合わせよ。しばらくしたら治療の準備を整えて来るから、それまでは元気にしていなさい」


 そう言いつつサリーから金貨を数枚受け取り、それをベッド脇に置いてあったサイドテーブルの上に並べる。


「これは自由に使ってちょうだい」


「こっ、こんなに貰えませんよ!」


 私が出した金貨に少女は驚き遠慮する。


 けれどそれをしまうつもりは毛頭ない。


「それでは、エレハお母様に宜しくお伝えしてね」


 これ以上の問答で体調を壊されても困る。


 ここでの私の用は済んだのだから長居は無用というわけよ。


「さあ、いくわよサリー」


「はい。姫様」


 私は何か言いたそうな少女に背を向け、後ろで控えていたサリーの手を取り懐に抱き寄せて、再び体を風に溶かした。


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百合姫様の憂鬱 @himagari

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