第二話
「あ、あの、神戸くん、そんなに急いだら危ないって……!」
息を切らせながら、江別は後から追いかけてくる。
傍から見たらいやな男子生徒だと思う。
けれどそうも言っていられない。もとから人からどう見られるなんて、気にもしていなかったけど。
がらり。
ノックもせずに、活動場所の視聴覚教室を開ける。
目に飛び込んできたのは、あはーんうふーんな映像が映し出されている光景だった。
どう考えても学校で流すには問題がありそうな映画だ。
脳と背中に衝撃が走る。
特に背中へのダメージで、ハルミは正気を取り戻した。
「いきなり止まったら危ないじゃない、ちょっと、神戸く――」
反射的に、後ろの女子には画面が目に入らないようにした。
一方、室内で鑑賞していたらしい生徒がハルミたちを見やる。
振返った女子生徒は、息をのむほどの美人。
色白で、細身で、まつげが長い。長い髪の毛は癖ひとつなく、よく手入れされていた。
ぴっとリモコンの停止ボタンが押される。
R18、またはR15の映画はスクリーンから消えた。
「あの、先輩!神戸くんです」
なるほど確かに、制服のリボンは三年生であることを示している。
ただ、こちらとしては入部するために放送部に来たのではない。
「あなたですか、あんなふざけた手紙書いたのは」
先輩は、小首をかしげながら微笑んでいるだけだった。
「とにかく、俺は放送部には入りません」
「そう、わかった、畦倉くん」
知らない人が見かけたら惚れてしまいそうな笑顔で、二の句を継ぐ。
「うちの新聞部に知り合いがいるから、今年の新入生に畦倉御影がいることでも話してくるね」
ああ、もう。
頭にくる。
「どうやって人の個人情報知ったのかとか思いますけどとりあえずおいときます。なんで人のプライバシーをわざわざ広めようとするんですか?ほんと勘弁してください」
「あ、やっぱり?じゃないとわざわざここまでこないもんね。あの中学からうちに来た人いないでしょ、ここ遠いし」
「で、要求はなんなんですか、なんで放送部に入れとか言われないとだめなんですか」
「そんなの決まってる。私が楽をしたいから」
「……は?」
春と夜更かし 香枝ゆき @yukan-yuki
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