第16話 侵入者
王宮の敷地内にある小さな森の中を進む。
予めレイモンにも伝えてあるが防犯の為、私たちの行動範囲は限定されている。
「こちらです」
ハミルトンの案内でリコが召喚された教会に着いた。
教会の周辺は整備されていて、建物も普段は使われていないはずなのに月明かりに照らされて荘厳な雰囲気を醸し出している。
「魔導士たち数人でここの整備を任されています」
「その整備に関わっている魔導士は誰でしょうか」
「上級魔導士五人です。後で名簿をお見せします」
「ありがとうございます」
この教会のことは禁忌としてしか伝わっていないはずだ。皇女とローサンはここに秘密があると知っていた節がある。それなら他の魔導士も何か感づいているのではないかと考えた。
「入口はここだけですか?」
「ほとんど使われていませんが、荷物などを搬入するための入口が奥にあります。こちらです」
ハミルトンが先頭を歩き出す。
「ハミルトン殿。お待ちを」
ヘリオスがハミルトンを止め、口元に人差し指を当てている。ヘリオスの視線の先は……。
リコとハミルトンは慌てて木の陰に身を潜めた。
月明かりに照らされたローサンがこちらに歩いてくる。
ハミルトンを見るが、首を横に振っている。ローサンが王宮に戻ってくるのを許可したわけではなさそうだ。
いつもは一緒にいる皇女もいない事からローサン一人で何かをしようとしているのだ。
ローサンの行動を三人は息を潜めて見ていた。
教会の正面入り口の前に立ったローサンは何か呪文を唱えている。かなり長い呪文だ。その間、ローサンの身体から黒い煙のようなものが出てきた。それが細く長いものへと変容して教会の扉の隙間から中へ入っていく。
リコは疑問に思った。
「魔法が使えないはずでは?」
聞いていたことと違う。ローサンは今度魔法を使えば命の補償はないと言われていたはずだ。今、目の前で繰り広げられていることはそれほど多くの魔力を使わないものなのか。
ハミルトンは無言のままだ。ハミルトンも信じられないようでローサンを凝視している。
リコはローサンの行動を見ていた。少しでも変わった行動をしないかと。
ただ、ローサンは教会の扉を開けようと必死に呪文を唱えているが、扉はピクリともしない。
さっきの黒い煙のようなものはあの漆黒の森の黒い物体とは違うことだけは分かった。
そのローサンは教会の入口で目を閉じたまま立っている。
ローサンの身体がビクリと跳ねた。
黒い煙は教会の扉から出てきてローサンの身体の中に消えていった。
「クソッ!」
ローサンが扉を睨みつけていたが、踵を返して森の中へと消えていった。
ハミルトンが先ほどまでローサンがいた場所まで歩きだしたので、リコとヘリオスもついて行く。
ローサンが立っていた場所、教会の扉をハミルトンは調べている。リコはその二つを凝視すると何となくわかった気がしていた。
リコが探していた痕跡を教会の中から感じる。リコは目的の物を見つけた。
「教会の中には入れますか?」
「今日は周辺のみ許可を取ったので中へ入るのは止めておきましょう。明日、レイモン皇子の許可をいただいてからということで」
リコは頷いた。
今日の目的は漆黒の森で感じたものの行方だったため、自分も中まで見るつもりもなかったからそれ以上は言わなかった。周辺を見るだけで分かると思っていたからだ。
まさか、ローサンが来るとは思わなかったが。
(中に入る許可までもらっておけばよかったか?少し後悔した)
「ローサンはどこに行ったのでしょうか」
「おそらく、皇女様の監禁場所でしょう」
「ローサンは皇女様に会えるの?」
「会えません。基本は」
ローサンの行方が気になった。どこかに潜んでいるかもしれない。
ハミルトンが言う基本とは監禁場所の誰かが皇女様にローサンを会わせている人物がいるらしい。そちらも気になるが、それはレイモンにでも任せよう。今は今夜、教会に来た理由を見つけなければ。リコは教会の周辺に意識を集中させた。
「あっ!」
「何か分かりましたか?」
見つけた。
だけど、その場所もしっかりとした証拠がない限りいろいろ面倒なことが起こる。
「戻りましょう。明日、教会の中に入る許可をもらって中を調べればわかるはずです」
いろんな考えを巡らせながら部屋まで戻った。
部屋に戻ってオリビアに食事を用意してもらう。
リコは食事をしながら明日の予定を確認する。
今日見た事を思い出しながら、ローサンの行動を思い返す。
ローサンは教会の中にある物を目的に来ていたはずだ。それが、教会の扉が開かなかったから次も必ずくるはずだ。
翌日、再度レイモンに教会に入る許可を貰いに行くと既にローサンが昨夜教会に来ていたことを知っていた。
「ローサンは魔法を使えないんじゃないの?」
「リコ。それは魔法石を使ったはずです」
レイモンに聞いたらハミルトンが昨夜調べたことを伝えてきた。ローサンが立っていた場所、教会の扉に強い魔法の痕跡が残っていた。今のローサンにはそれだけの魔力は残っていないので魔力を補助するために魔石を使ったと言う。
魔石は石そのものに魔力が込められていてそれをもって魔法を使うと能力以上の力が出せるらしい。
「魔石?」
「いや、魔石だけではローサンの力を補うことは出来ないはずだ」
レイモンが疑問を呈した。ローサンには魔力はほとんど残っていない。魔石は通常、討伐に行くものが補助的な目的で魔石を使う。
「レイモン皇子。それなら……あの魔法石ですか?」
「魔法石は外部に出ることはないはずだが」
レイモンとハミルトンの会話について行けない。
何が問題なのか。
二人の顔を交互に眺めているとレイモンが気づいてくれた。
魔石は元々魔力を含んでいて、流通している魔石に強い魔力はない。その為、魔導士たちがその魔石に予め魔力を入れて討伐の時の補助として使っているらしい。
ただ、ごくまれに強力な魔力を持っている魔石があって、それを魔法石と呼んでいる。それは魔力を入れる必要がないため、そのままで使えるがその流通は国が管理しているとレイモンが説明してくれた。
「ローサンはその魔法石を手に入れることは出来るの?」
「無理だろうな。通常の取引でも貴族の屋敷一つ分くらいの値段がする」
そんなすごいものをローサンが持っていた?
「皇女様なら手に入る?」
「正式には無理だろうな」
レイモンが即答した。それほど、貴重な物なのだろう。
「正式にではなかったとしたら?」
「どこから手に入れたかが問題だろうな」
「レイモン皇子。もしかして、あの場所ですか?」
「この間から兄上が密かに調べていることがあるが、もしかしたらつながるかもしれない」
「どういうこと?」
教会にはかなり強い魔力が感じられた。もともとあの教会には魔力を増強する力があると聞いている。もしかしたらあの場所にその魔法石があるのだとしたら、ローサンはそれを狙って教会に来たのかもしれない。
ハミルトンがすぐ調べますと言っていた。
数日後。ハミルトンが調べた結果、教会内にあるはずの魔法石が無くなっている事がわかった。
「魔法石まで盗んでいたのか!」
レイモンが怒りを露わにしている。
「すぐにでもあいつらをなんとか出来ないのか?」
レイモンが当たり散らしている。
「リコ!王の病はどうだ?」
「ローサンの救出方法がまだです」
「ローサンの救出なんかしなくてもいいだろ」
レイモンの焦りが周囲に伝わる。
「レイモン皇子、ローサンは重要な証人になります」
ハミルトンの言葉にレイモン皇子はやっと落ち着きを見せた。
「ネヴィル皇子が魔法石の行方を追ってくれています。その報告を待ちましょう」
リコが言うと何かを決意をしたようだ。
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