第11話 王の病

 別室に連れていかれて軽症者に先ほどと同じことをしてみるようにハミルトンから言われて、思い出しつつ手を添えて念じるとやはり温かい光が出て切り傷は跡かたなく消えた。


「治療魔法が使えるのか……」


 ハミルトンは少し待つように言うと部屋を出ていった。しばらくすると団長のウォルターとレイモンがやってきた。


「リコ。治療魔法が使えるって?」


 先程、私が聞きたかったことをはぐらかし逃げていったレイモンは治療魔法と聞いて飛んできたらしい。


 私を囲んで、長身の団長のウォルター、副団長のハミルトン、レイモンと並ぶと凄味すら感じる。


「さっきのはなし……」

「あとで説明する。それより、治療魔法はどうやって学んだ?」

「学んでないわ。ハミルトン様からもその説明はされていないし、どうやるのかもわからない。さっきは跡が残ったら可哀想だと思ったらいきなり光だしたから」

「確かに、最初リコを見た時、治療魔法は使えなかったはずだ。だからハミルトンには主に防御魔法と攻撃魔法の修練を頼んだ」


 リコは治療魔法が使えることすら知らなかった。レイモンの言い分も分かる。


「ポーション作りの過程で突然変異でも起きたのでしょうか?」


 ハミルトンも不思議そうにリコを眺める。

 レイモンは何か言いたそうにウォルターを見ているのが気になるが、ウォルターはさっきからリコを見て考え込んでいる。


「レイモン皇子。リコに王を見てもらうのはどうでしょうか」

「リコに王の治療に当たらせるのですか?」


 レイモンとハミルトンが声をそろえて聞き返す。


「今でも魔導士が王の治療に当たっています。王の病が治るとの保証はありませんが何か手掛かりでも見つけられたらと考えるだけです」

「ウォルターが言うのなら、やってみる価値はありそうだな」


 レイモンまでウォルターの考えに賛同し始める。ハミルトンを見るが眉間に皺を作るだけで何も言わない。


「リコ。どうでしょうか」

「どうでしょうかと言われても、治らなくても処罰されるとかはないですよね」


 以前、歴史書で読んだことがある。昔の王や君主の主治医は王や君主が亡くなるとその責任を取って処刑されると。下手に関わって処刑されるなんてまっぴらだ。

それなら最初から手を出さない方がいい。下手に関わらないのが一番だと思う。


「それは私が保証する。そんなことで処罰の対象になるのなら今まで治療にあたっている者たちはすべて処罰の対象になってしまう」


 レイモンが断言してくれたが信用できない。団長のウォルターと副団長のハミルトンを見ると二人とも頷く。大丈夫そうだ。


「分かりました。ですが、あまり期待しないでください。治療魔法が使えることは今、知ったばかりですから」

「大丈夫だ」


 レイモンの言葉を合図に王に会うための準備が進められた。

 ウォルターとハミルトンも一緒に行ってくれると言うことで着替えに戻った。リコも着替えのため部屋に戻るとマリベルが治療魔法士の制服を持ってきてくれ着替え手伝ってくれた。


 部屋を出るとレイモンが迎えに来てくれていた。


「ここ最近の王はほとんど意識がない状態が続いている。だからその原因だけでも分かるとありがたい」

「あとで話すって言っていたことは今話してくれないの?」

「三人だ」

「え?」

「リコを召喚した者達複数人いるはずだが、まだ全員の話を聞けていない。下手をするとリコを盾に何か仕出かすかもしれないから、もう少し待ってくれ」

「私が治療魔法を使えるのは危険?」

「分からないが、おそらく問題ない」

「分かった。必ず教えてね。自分がどうして呼ばれたのか知りたいから」


 レイモンとの会話が終わり王宮の一室の前まで行くとウォルターとハミルトンが正装で立っていた。

 ドアの両端には騎士が立っていたが、レイモンが目配せをするとドアを開けてくれた。


 レイモン、リコ、ウォルターにハミルトンの順に部屋に入る。


 リコが寝室に使っている部屋の何倍も大きな部屋の真ん中に大きなベッドがある。

 傍には若い治療魔法士二人と老人がいた。


「さっき話した者だ」


 レイモンが言うと治療魔法士はベッドから離れる。代わりにレイモンに促されてリコがベッドの脇近くに行く。


 王の呼吸が荒く、苦しそうにしている。治療魔法士たちが付きっきり見ていても治せない病とは何だろう。何をどうすればいいのかまだ分からないが、とりあえず布団から出ている王の腕に手をかざしてみた。


 ふわっ。


 手から光が出てそれが広がるのが分かった。光は王の身体を包むように広がり、それと同時に別の物が見えた。


 すっと光が消えていく。


「ちょっと失礼します」


 治療魔法士の一人が王の脈を診て興奮気味に言った。


「呼吸が安定しています」

「本当か!」


 ウォルターとハミルトンが前に出てきた。

 レイモンも王の顔色を見ている。上手くいったのか?


「侍医。どうだ」


 部屋の隅にいた老人がそろそろとベッドに近づき王を診断する。


「確かに呼吸も安定して落ち着いています。何をされたのですか?」


 私に聞かれても分からない。よくなるようにと願っただけだ。


「具体的な治療方法は言えないが、これから毎日通わせる。三人は引き続き王の容態を見ていてほしい」


 レイモンが上手く誤魔化してくれて王の寝室を出た。

 レイモンが執務室として使っている部屋が近くにあるというので四人で向かう。部屋に入ると同時にレイモンが結界をウォルターが防音魔法をかけていた。


「リコ。王はどんな感じだった?」


 レイモンの問いに、説明が難しかった。


「よくなるようにと願ったら光が王の身体を包み込んでいました。ただ……」

「何か見えたのか?」


 ウォルターが聞いてきたのでリコは頷いた。

 それこそどう説明すればいいのか分からない内容だ。


「光が王の身体を包んでいたのに王の身体の中は黒く蔓延っているように見えました」

「あれだけの光でも中まで届いていない?」


 ハミルトンが驚いている。


「黒魔術か?」

「そうか!」


 ウォルターの呟きにいち早く反応したのはレイモンだった。

 ウォルターの説明だと、病に似せた症状を作り出す方法に黒魔術があるという。

 ただ、ウォルターも黒魔術のことはあまり詳しくないらしく。更に王の身体の中の黒い塊はリコにしか見えなかったようだ。


 レイモンから聞いて王宮の図書館なら黒魔術の記述が載っている本があるかもしれないと早速、図書館に向かった。

 やはり私は王の薬のために呼ばれたのだ。そう確信した。それなら病を治せばその後の生活は保障してくれないかと考えたが、それは病が治ってから考えることにした。

 今は、王の病の原因を探る。それも目に見える詳しい症状はリコにしかわからないのでリコが調べるしかなかった。


 図書館の入口で魔法に関する記述のある棚を教えてもらい、いくつかの本をもって窓際の明るいテーブルに本を広げた。

 主に治療魔法に関連する本を読んでいると本に影が出来て顔を上げるとネヴィル皇子が立っていた。慌てて席を立って挨拶をしようとしたとき、ネヴィル皇子はリコの手元にある本を一瞬見た。


「なにを企んでいる!」


 凄味のある声で問いかけられた。

 射るような目つきでリコを見ている。怖くて体が震えてきたが何も言わないと誤解される。


「治療魔法が使えることが分かったので調べていました」

「治療魔法?」


 何も悪くない!必死に虚勢を張ってネヴィル皇子を見た。

 ネヴィル皇子はもう一度テーブルにある本とリコを見てから帰っていった。

 ネヴィル皇子の姿が見えなくなると急に力が抜けて体がふらついた。慌てて手をテーブルに置き支えたがその手はブルブルと震えている。

 その場に座り込んで震えが止まるのを待ってから部屋に戻った。

レイモンに頼んで図書館にある黒魔術の本を借りて来てもらった。図書館に行ってまた、ネヴィル皇子に会ったら面倒だ。部屋で待っているとレイモンが五冊ほど借りて来てくれたので読み始める。黒魔術が出来る事から状況などかなり詳しく書かれていた。読んでいくとリコが見た状況が書かれているページがあった。やはり王の病は黒魔術だと、確信した。それを治す方法なども書かれていたがそれを踏まえて治せるかわからなかった。

でもやるしかない。

リコは再度図書館に向かった。

黒魔術に関する病の事が書かれている本を探していたらネヴィル皇子がまた、現れた。

「今度は黒魔術か?何を企んでいる!」

ネヴィル皇子に凄まれる。

「王の病を治す為の調べ物です」

リコも負けずに睨みかえす。

「やれるなら、やってみろ!ぜったい阻止してやる」

ネヴィル皇子はそう言って図書館を出て行った。

駄目だ!絶対誤解されている。次会った時何を言われるのか考えるだけ怖くなってくる。

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